変わろう、変わろうとしてしまうと……

「ボランティアをやってみたことも“飛び込んでみなきゃ分からないよ”という考えに繋がるのではないかと思いましたね。転んだら転んだでいい。そこで初めて足りない部分を身をもって感じることができる。日常の行動からブレイクしていけそうだと感じました」

　では、新型コロナウイルス禍によって人々の生活が変化を強いられるようになっている中、小平は心の変化の必要性をどのように考えているのだろうか。

「変わろう、変わろうとしてしまうと、自分の生きているペースから離れてしまうと思うんですよね。自分から強引に変えようとするのではなく、世の中の変化に対して近すぎず遠すぎずという距離を保ちながら、自分の軸をブレさせないようにして生きていきたいです」

2010年バンクーバー五輪での小平　©JMPA

人との関わり合いで学びを編んでいけたら

　とはいえ世界では現在もなお、予断を許さない状況が続いている。来夏に延期された東京五輪に影響があれば、その半年後の'22年2月の北京五輪にも連鎖していくこともありえる。しかし、小平は凜としている。

「私の取り組みは変わりません。そこに不安を抱いてしまうと、空白の時間を過ごすことにもなりかねない。純粋にスポーツに向き合う時間、目の前にある時間、自分が生きている時間だけを大事にしていきたいです」

引退会見に臨んだ際の小平　©Kyodo News

　小平にとって理想のメンタルは、鍛えて強くするものではない。

「自分で自分を強くしなきゃというよりは人との関わり合いで学びを編んでいけたら良いと思っています。強さより、安定感や整っているメンタルという方がしっくりきます。人間なので命が懸かっている時は精神力を振り絞らなければいけない。その時のためにエネルギーを取っておく。普段は安定させておいて、必要な時にしっかり使うという感覚ですね」

　強い弱いの物差しで測りがちなメンタルだが、小平の指標は違った。安定感こそが彼女のたおやかさの源だった。

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