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東大大学院在学中“異色の将棋棋士”が教える、“8割超え”藤井聡太竜王(19歳)の美しい勝ち方「『藤井曲線』とは何か?」
text by
内田晶Akira Uchida
photograph bySankei Shimbun
posted2022/01/21 17:05
2016年の四段昇段後、毎年8割以上の勝率を挙げている藤井聡太竜王(19歳)
「最終盤で詰みがあるけれど時間がない状況での形勢判断というのは案外簡単にできるのかなって思っていて。評価関数の入力変数に残りの持ち時間や局面の複雑度をうまく定義付けできればいいのかなと。そこは難しくはないはずなんですけど、人間らしさを出すとなると簡単ではないかもしれません。AIと人間の思考プロセスはだいぶ違うので、現在のとにかく強くしようといったベクトルとは違う作り方をしないといけないでしょうから」
人間の良さである個性と正確無比のAIをうまく融合させることがひとつの理想形である。互いの長所を組み合わせることで新たな世界観が開ける。
AIに“振り飛車”が見直される可能性
現状、振り飛車に対して厳しい評価を下すAIだが、谷合は生粋の振り飛車党だ。それはなぜなのか。
「四間飛車を採用しているのは覚えることが居飛車党に比べて少ないからです。居飛車党と振り飛車党が7対3の割合として、振り飛車の中で四間飛車、三間飛車、中飛車とあるわけだから単純計算でそれぞれ1割ずつ。つまり居飛車党が四間飛車の人と指すのは100局のうちのたった10局のみで、得られる経験値もわずかです。一方で四間飛車側から見たら7割が居飛車党との対戦なので100局指せば70局、経験値が居飛車党の7倍になります。将棋は経験値の積み重ねが重要です。定跡の範囲は事前準備でなんとかなりますけど、研究から外れたあとの大局観などは経験がモノを言うところが大きいですからね。仮に序盤で点数を少し失ったとしても最後は経験値の差で逆転して勝つんだといった気持ちでいつも指しています」
将棋AIは研究や実戦譜を取り込むことで進化していく。振り飛車の将棋については発展途上といった見方ができる。
「評価値というものは経験から出される統計的なもの。そういう意味でも振り飛車の将棋は相居飛車と比べるとそこまで局数が出ているわけではないため、見直される可能性があるんじゃないかと。現在の振り飛車は厳しいジャッジをされていますけど、今後さらに進化すれば評価される可能性もあると見ています。将棋AIの学習プロセスのほうに問題があって、不条理なバイアスがかかって居飛車がよくなっているだけといった可能性も否定できないと個人的には思うんですよね。実際AIにも流行戦法というものがあるんです。ちょっと前までは角換わりが流行っていたけど、千日手になりそうだということで相掛かりに移っていきました。最近は相掛かりも研究されて矢倉に移り変わってきたみたいですし。そのうち相居飛車は微妙だからと振り飛車が見直される可能性は残っているんじゃないかと見ています」
振り飛車愛好家が多いアマチュアにとって希望となる言葉である。