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東大大学院在学中“異色の将棋棋士”が教える、“8割超え”藤井聡太竜王(19歳)の美しい勝ち方「『藤井曲線』とは何か?」
posted2022/01/21 17:05
text by
内田晶Akira Uchida
photograph by
Sankei Shimbun
「藤井聡太さんはAI研究によって、デビュー時に比べて序、中盤が明らかに強くなったと言われており、AIを使わないと藤井将棋の神髄に迫れないのではないかと思ったんです。それならいっそのことAIで藤井さんの一手一手を詳細に解析してしまおうと。ABEMAなどの放送でAIの評価や候補手が出ますけど、解説者が指し手の意図に迫るのはなかなか難しいですからね。対局者の読みの裏に隠された変化などAIによって新たな鉱脈が見つかれば楽しめるんじゃないかと考えたのです」
そう語るのは谷合廣紀四段。東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程に在籍する異色の棋士だ。昨年末には『AI解析から読み解く 藤井聡太の選択』(マイナビ出版)を上梓するなど、AIによって藤井将棋をひもとく試みを続けている。
谷合と藤井竜王の対戦は奨励会三段リーグでの一局のみ。当時の藤井三段は成長途上の13歳だった。
「当時の藤井さんは序、中盤に課題があるように感じましたので、私としてはいかに前半でリードして、そのまま逃げ切るかを当時は考え、結果ゴキゲン中飛車で藤井さんの超速3七銀戦法を破ることができました。ただ、それはネット将棋で匿名アカウントの藤井さんと同じような将棋を指したことがあって、想定していた展開のひとつだったんです。藤井さんは私と指していることを把握していなかったと思いますので、一方的に得た情報の差が大きかったですね」
「藤井曲線」とは何か?
プロになってからの藤井竜王は、毎年8割以上の勝率を挙げながら将棋の内容が年を追うごとによくなっている。タイトル戦の常連になってからも高勝率を維持し続けているのは驚異的だ。
そして最近は藤井竜王の完勝譜の一手ごとの局面を評価した値を結んだ形勢推移のグラフが“藤井曲線”と呼ばれるようになった。序中盤はなだらかに上昇し、終盤で一気に上昇する美しい藤井曲線は、相手がミスしないからこそ生まれる。「悪手を指してしまうとガクッと一気に下がってしまい、なめらかな曲線にはなりません」と谷合が語るように、強い相手と対局してこそ現れる曲線なのだ。
しかし、いわゆる藤井曲線とは対照的なグラフになった一局がある。2020年10月5日に行われた第70期王将戦挑戦者決定リーグの豊島将之竜王(当時)戦。終盤戦で何度か形勢が入れ替わる混戦を豊島竜王が制した。