箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「起用が慎重すぎでは?」東洋大ルーキー石田洸介が箱根駅伝回避を決断した“深い理由”〈歴代エースは1年目から主要区間に〉
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byNanae Suzuki
posted2022/01/13 17:05
「1年生の三大駅伝オール区間賞獲得」が期待されていた東洋大ルーキーの石田洸介だったが、今年の箱根駅伝はまさかの出場回避となった
「もちろんタイプの違いもありますが、一番は練習の問題ですね。例えば、服部は1年生の時は春から走れていましたから、練習の消化具合が違いました。石田は8月末から走り出して、それで出雲も全日本も走っていますから。良いランニングをするために、もう1回整えることからやろうと話しています」
能力の高い選手だけに、試合での出力は大きく、また、その反動も大きい。まして、練習を積めなかった期間が長かったのだから、酒井監督が慎重になるのも当然のことだった。石田の状態を見極めながらトレーニングを課してきたが、それは決して過保護というわけではなかった。
入学時に語っていた「まずはしっかり土台を作ってから」
そもそも、石田は高校時代もスロースターターだった。1500m、3000m、5000mの中学記録保持者として1年目から活躍が期待されながらも、下級生の頃はなかなか見合った結果を出せずにいた。ようやくトンネルを抜け出したのは高2の終わり。そして、3年時には5000mの日本高校記録を16年ぶりに塗り替えるなど、再び輝きを取り戻した。
石田自身、高校時代の体験があるからだろう。東洋大に入学したばかりの頃にこんなことを話していた。
「高校1年の時は、自分で立てた目標が高すぎて、なかなか達成できず、苦しい1年間でした。今年1年間は環境に慣れることから始めて、土台を作っていきたい。もちろん世界を目指していますが、土台ができていないと、そもそもがダメだと思うので。
時間はかかると思うんですけど、まずはしっかり土台を作ってから、いろいろな方向に発展させていきたい。1年目は、自分にプレッシャーをかけ過ぎずに、伸び伸びと取り組みたい。そこからが勝負だと思っています」
他大学のルーキーや、過去の先輩たちと比較されがちだが、大学入学後も歩みを止めたわけではない。むしろ着実に、少しずつ成長し続けているのは間違いない。
世界への過程に「箱根駅伝」がある
「冬季練習から充実したトレーニングを積まないと、春先のトラックも勝負できません。彼が箱根駅伝に向けて取り組んできたことは必ずプラスになっていますので、さらに発展させていきたい」
こう話す酒井監督も、まずは「自己ベストから」と、いきなり大きな成果を石田に求めることはしない。一歩一歩を積み重ねたその先に、世界への扉も開かれるのだろう。
「箱根は夢の舞台であり、通過点にしなきゃいけない大会」と石田は話しており、世界への過程に箱根駅伝がある。
今回は「サポートでチームに貢献したい」と、自ら志願し、9区の前田義弘(3年)の給水係を務めた。来年こそ、走者としてチームに貢献する石田の活躍が見たい。