“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
《選手権V》青森山田のエース松木玖生(3年)に芽生えた“犠牲心”「2年の時はゴールを決めたい気持ちが強かった。でも、今は…」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/01/11 11:03
キャプテンとして青森山田を牽引したMF松木玖生(3年)。信じた仲間たちと頂点に立った
こうした選手たちの姿勢に、黒田剛監督もきちんと寄り添った。「高い目標を掲げるということは、それだけの覚悟が“セット”でないといけない」と、選手たちに厳しく接してきた。
「前線からのプレスも、カウンターも、ポゼッションも、ブロックを作った守備も、セットプレーも全てやり切れる『何でもできるチーム』にすることを意識してきました。春からずっと『打倒・青森山田』という声が全国各地から聞こえてきて、青森山田をどこでどのチームが倒すかという図式ができあがっていた。それは選手の耳にも入っていたと思う。でも、いちばん強い組織は弱点がないし、相撲でいう横綱も弱点がない。組織としていかに弱点を減らして、強みに変えていけるか。だからこそ時間がかかるし、積み上がったときにはすごく強い組織になる」(黒田監督)
日常の行動が試合の結果に表れる。勝負の分かれ目にも影響を及ぼす。黒田監督は常々、選手たちに「本当の敵は自分自身」だと、言い続けてきた。
青森山田のグラウンドで聞こえる会話
指揮官が示した方向性を選手が共有し、モチベーションを上げ、自分たちが何をすべきか議論して練習をこなしていく。青森山田のグラウンドではいつも“会話”が飛び交っている。時に練習を中断させ、練習の質と強度について疑問を投げかけ合い、目指しているものは何かと、何度も確認する。それが日常になっているからこそ、「重圧」に打ち勝てる。
個で争うのではなく、チーム一丸となって重圧を跳ね除ける。そんな姿勢をこのチームからずっと感じ取ってきた。
「我々には経験がある。だからこそ、気負うことなく、冷静に淡々と一戦必勝の気持ちで戦っていく。どのチームも打倒と思っていただけるのは本当に光栄なこと。でも、我々は受けて立つとは思っていないし、いつでも青森山田は僕らのサッカーを目の前の相手に対して100%やる。精一杯やることがベースなので、そこはぶれることはありません」(黒田監督)
インターハイでは大会新記録となる30ゴール・3失点という驚異的なスコアで優勝した。強豪校やハイレベルなJユースが集い、「高校年代でいちばん優勝することが難しい」と評されるプレミアリーグEASTも制覇した。いよいよ、残すは選手権のみ――ただ、選手権を勝つことの難しさをどの高校よりも理解しているのが、青森山田だった。