“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
《選手権V》青森山田のエース松木玖生(3年)に芽生えた“犠牲心”「2年の時はゴールを決めたい気持ちが強かった。でも、今は…」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/01/11 11:03
キャプテンとして青森山田を牽引したMF松木玖生(3年)。信じた仲間たちと頂点に立った
準々決勝まで40分ハーフで行われる選手権は、プレミアリーグと比べても10分短い。決勝を除き、ドローで終われば、即PK戦に突入するレギュレーションだ。青森山田が相手ならばと、5バックで臨むチームや守備に人数を割く戦法を取って「PK戦でOK」と割り切る高校だって少なくはない。対戦校たちは捨て身の戦術で策を講じてくるのだ。今年度はすでに2冠を達成したことも大きく影響し、“青森山田包囲網”は過去最大の強度となっていたと言っていいだろう。
やりにくさはこれまで以上。しかし、それでも彼らの信念は揺るがなかった。
今大会で最初の山場とされた3回戦の大阪・阪南大高戦では3点を先行して優勢に試合を進め、インターハイ以来の再戦となった京都・東山との準々決勝では4バック+スイーパーを置くシステムに苦戦するも、前半のうちに松木のPKで追い付き、後半は猛攻で決勝点をもぎ取った。準決勝では山口・高川学園の必殺技である『トルメンタ』を封じ込め(与えたCKはゼロ、自陣の相手FKは1つのみ)、6-0で圧勝した。
決勝では、4バックの真っ向勝負を挑んできた大津に対し、前線からの激しいプレスを仕掛け、容赦ないサイド攻撃を徹底。前半37分には、実に9本目のCKからDF丸山大和(3年)の先制弾が生まれた。2-0で折り返すと、後半も“日本一早い攻守の切り替え”を武器に猛攻を仕掛け、55分に松木が、78分にはFW渡邊星来(3年)が決めて、4-0の快勝。何より大津のシュートをゼロに押さえ込む完璧な出来だった。
「甘さは隙を生む」
インターハイ、プレミアリーグ、そして選手権と、点差がつく大味なゲームは数多くあった。だが、印象的だったのは、彼らはどの試合でも最後まで一切手を抜かないことだ。
勝ち続けることで生まれる過信を、黒田監督は「隙」という言葉を使って選手たちに伝えた。試合で生じたミスも、個人のミスで片付けず、チーム全体のミスとして問題意識を持ち、それを改善するための術をチームで話し合う。「勝てば官軍ではない。甘さは隙を生む」ことを日常に落とし込んできた。
青森山田は決勝のピッチでもそれをしっかりと体現した。FW名須川真光(3年)は最前線で常に体を張ったし、エース松木と宇野はセーフティーリードでも全力でボールを奪いに行く。GK沼田晃季(3年)のコーチングの声は最後まで途切れることはない。途中出場した選手たちも果敢にゴールを狙い続けた。
「(決勝戦は)今年いちばんのパーフェクトな内容。勝ちたい意欲が1年を通してずっと持ち続けられていたし、何よりそれをやり切ったことは称賛に値する。本当に素晴らしい選手たちだと思います」
試合後、黒田監督は心の底から選手たちを賞賛した。選手たちの表情からも、充実感は伝わってきた。