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98年1月8日「雪の決勝」の当事者が語った“伝説の真実”…帝京のエースが悩む一方、東福岡は「ワクワク感が止まらなかった」
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2022/01/10 11:03
名門・帝京のキャプテンは中田浩二。抜群のゲームメイクで2トップの輝きを引き出した。
帝京が先制、しかし東福岡は動じなかった。
“金勘定部屋”の近くでテレビ観戦していた運営スタッフの「おお!」という声が耳に届いたのは、キックオフから20分が過ぎた頃だ。
横田の予想どおり、先制点を奪ったのは帝京だった。前半21分。右サイドのセンターライン付近で縦パスをインターセプトした中田が、迷うことなくゴール前にロングボールを放り込んだ。飛び出したGKの手が触れるより早く、金杉の頭がボールに触れた。
木島が振り返る。
「これでイケる。そう思ったけれど、東福岡は動じてなかった。俺たちはまだ、雪のグラウンドで何をすればいいかわかってなかったんです。でも、あっちは少しずつ、戦い方を理解している感じだった」
同点弾はわずか3分後に生まれた。右サイドの古賀大が放ったシュートは雪の影響もあってファーポスト際でピタリと止まったが、2年生MFの榎下貴三は足を止めずに走り込み、ネットを揺らした。
この同点ゴールを機に、東福岡の志波監督は動いた。前半28分、同点ゴールの榎下に代えて古賀誠、1年生FWの寺戸良平に代えて青柳雅裕を送り込む。青柳を2列目に、ボールの収まりがいい本山を1トップに配置するこの布陣への変更は、つまり「パスをつなげ」の合図である。
見た目ほど、雪は積もっていなかった。
雪は降り続いていた。グラウンドは真っ白のままだった。ただし、“積もり具合”は見た目のインパクトほどではなかった。
千代反田が言う。
「特に後半は、立ち上がりからウチのほうが余裕があった気がします。ボールを支配して、狙いどおりのつなぐサッカーができるようになった」
後半5分。帝京の小さなクリアを拾った東福岡がショートカウンターを繰り出す。ドリブルで相手を引きつけた本山のラストパスに飛び込んだのは、途中出場の青柳。このゴールで逆転に成功した東福岡が最後までリードを守り抜き、高校サッカー史上初の「三冠」を成し遂げた。