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山本由伸23歳「2021年の3503球」は2022年に影響するのか 菅野智之や大野雄大らエースの“フル回転した翌年成績”は? 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byNanae Suzuki/JMPA

posted2022/01/08 11:02

山本由伸23歳「2021年の3503球」は2022年に影響するのか 菅野智之や大野雄大らエースの“フル回転した翌年成績”は?<Number Web> photograph by Nanae Suzuki/JMPA

日本シリーズや五輪で快投を見せた山本由伸。パMVPの2022シーズンはどうなるか

 MLBでは成績もさることながら、イニング数を稼ぐ先発投手のことを「イニングイーター」という表現で評価されるが、メッセンジャーは21世紀のNPBでは最高のイニングイーターだと言ってよいだろう。

 則本昂大は、田中将大がMLBに移籍した2014年にエース格となり、ここから5年連続奪三振王。抜群のスタミナを誇ったが、2019年に右ひじの手術を行ってからは登板数、投球数ともに減少している。金子千尋も2013、14年と3000球を投げたが2014年オフに右ひじ骨棘除去手術を受け、翌年は1500球にとどまっている。

 2011年より前でいえば、杉内俊哉が2007~10年の4年連続、三浦大輔が2005~07年、前田健太と成瀬善久が2010~12年の3年連続、ダルビッシュ有が2010、11年の2年連続と、連続して3000球を投げる投手は少し前までは散見される。

 以上のデータから勘案すれば、こういう見方もできる。

「少し前までNPBでは毎年、3000球以上投げても壊れないようなスタミナ抜群のエースがいたが、そうしたトップクラスの投手の一部はMLBに移籍し、残る投手も力が衰えたり引退して、3000球投手は『絶滅危惧種』になった」

3000球超投げたエースの翌年成績を見てみると

 しかしながら、違う見方もできる。

「メッセンジャーなどごく一部の例外を除く3000球投手は翌年以降、成績が落ちる。投球過多のダメージは大きいので、先発投手を長く稼働させたい各球団指導者は、投球数を抑制した」

 3000球以上投げた年の翌年に、成績が落ちた投手は数多い。

 大野雄大(中)
 2015年 3250球 11勝10敗207.1回 率2.52
 2016年 2130球 7勝10敗129.2回 率3.54
 武田翔太(ソ)
 2016年 3103球 14勝8敗183回 率2.95
 2017年 1300球 6勝4敗71回 率3.68
 菅野智之(巨)
 2018年 3129球 15勝8敗202回 率2.14
 2019年 2280球 11勝6敗136.1回 率3.89
 千賀滉大(ソ)
 2019年 3077球 13勝8敗180.1回 率2.79
 2020年 2096球 11勝6敗121回 率2.16(※120試合制)

 同等の成績を残せたのは、20年に投手三冠を達成した千賀くらいである。各球団のエース格であっても、3000球以上投げた翌年は1000球前後投球数が減少する。つまり、ローテを維持できない期間ができてしまうのだ。

 こうした経験則、あるいはもっと精緻なデータによるのかもしれないが「投手にシーズン3000球以上投げさせるのは良くない」という考え方が主流になってきているのだと思う。

 近年、規定投球回数をクリアする投手が減っているのも、先発投手の投球数を抑制する傾向になってきているからだろう。

以前はメジャーでも3000球以上が先発の義務だったが

 沢村賞の選考基準には「200投球回以上」という項目がある。これをクリアするためには1イニング15球平均で投げても3000球を超す。選考委員である昭和の大投手たちは「エースならこれくらい投げてほしい」と話すが、現在のプロ野球のトレンドは沢村賞の価値観とは逆行していると言えそうだ。

 実は、MLBではシーズン3000球以上投げるのは「先発投手の義務」と言ってもよかった。

【次ページ】 無理をさせたくないが大一番では……というエースの宿命

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