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「おまえの監督レベルはセリエCだ!」 ザックの愛読ベストセラー小説でも描かれた“イタリアの熱くて幸せなバール文化”とは
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakashi Yuge
posted2021/12/28 17:01
カルチョの国に欠かすことのできないバール。月曜の朝は週末の試合結果の話題で賑わう
世のお母様たちが見たら、さぞ眉をひそめたに違いないが、イタリアの少年たちはそういういかがわしい場所を経験することで、少しずつ大人の男になっていった。
ガー、プシューッ!
大仰な音を立てる、年代物の業務用エスプレッソマシン。
21世紀になっても生き残っているピンボールのゲーム台。安物スピーカーに流しっぱなしのFM番組がかけ た、ベリンダ・カーライルの「Heaven is a place on earth」――。
バールは、イタリア人の心の中にある原風景のひとつなのだろうと思う。
コロナ禍でもバール文化は生き残った
コロナ禍により、イタリアの飲食業界も一時危機的状況を迎えたが、バール文化はしぶとく生き残った。
この先、オンラインでの交流がより盛んになったとしても、いざ物理的な社交の場がなくなったら、カルチョ・ファンは現実の人生で何か大事なものを失ってしまうだろう。
幸いなことに、近所の馴染みのバールはテイクアウトやメニューの配達で苦しい時期を乗り切った。
ちなみに、この店にはセリエAの“7シスターズ”(ユベントス、ミラン、インテル、ローマといった強豪7チームのこと)よろしく、看板娘のバリスタが7人いる。7人中2人は子持ちの若いママだが、彼女たちはいがみ合うこともなく、1年中和気あいあいとコーヒーを淹れてくれる。嘘のようだが本当の話だ。
日曜の朝、我が家の子供たちにバールへ行こうと誘うと、彼らは「行く行く!」と勇んでついてくる。店のドアを開け、威勢のいい挨拶が響いた後、看板娘の1人マルティナが子供らに尋ねる。
「おちびちゃんたち、好きなチームはどこ?」
「ミラン! パパと同じだよ!」
「あらー残念! タカシってユベンティーノじゃなかったのねー」
「俺はオランダトリオの頃からミラニスタだよ!」
このボケツッコミをもう何度繰り返したことか。
でも、この国中のバールで交わされる、カルチョを介した日々のやり取りは、きっとどこかでスクデットに、アッズーリに、そしてW杯につながっている。
僕は心からそう思う。