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「おまえの監督レベルはセリエCだ!」 ザックの愛読ベストセラー小説でも描かれた“イタリアの熱くて幸せなバール文化”とは 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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photograph byTakashi Yuge

posted2021/12/28 17:01

「おまえの監督レベルはセリエCだ!」 ザックの愛読ベストセラー小説でも描かれた“イタリアの熱くて幸せなバール文化”とは<Number Web> photograph by Takashi Yuge

カルチョの国に欠かすことのできないバール。月曜の朝は週末の試合結果の話題で賑わう

「N」の字が入ったグッズがあれば主人はナポリ出身者

 店内を見渡して、マラドーナの写真か「N」の字のクラブロゴが入ったグッズがどこかに置かれていれば、まず間違いない。主人はナポリ出身者だ。

 僕の住む街にも水色のバールは一軒あって、最近寄ったときに以前から気になっていたことを店主に尋ねてみた。

 あの棚にある古いビール缶って、もしや……?

「おう、そうよ。こいつは87年にナポリが初めてスクデットを獲ったときの優勝記念缶だ。今となっては、そうお目にかかれん代物だな」

 前歯の欠けた初老の店主は「ひょっとしたらクラブの倉庫に転がってるかもしれんがな」と言いながら、缶を自慢気に見せてくれた。ナポリのミュージアムがあれば、立派な展示品のひとつになるだろう。

「故郷ナポリを後にしたのは初優勝の4年前だ……」と、店主は遠い目をした。

 職を求めて地元を離れ、津々浦々に散るナポリ出身者は、自分の店を持てるようになったとき、余所の土地であっても故郷の空の色で塗り上げることにこだわる。

 そこまで深い情を捧げるのは、僕の知る限りナポリファンだけだ。プルタブ型の古ぼけた缶は、望郷の思いとともにずっと棚に鎮座してきたのだろう。

 頼んだエスプレッソを冷めないうちにすすっていたら、常連らしい中肉中背の親父が「そのビール、俺も飲んだことあるぜ!」と話に割り込んできた。「嘘つけ!」と応戦する店主との掛け合いを横目に、僕は礼を言って店を出た。

郷土のバールは、いわば“後援会”

 帰宅しながら思い出したのは、パブッロ・ネル・フリニャーノという小さな村の名前だ。

 イタリア北部のサッスオーロから約40km離れたその村は、2005-06シーズンのセリエA得点王ルカ・トーニの故郷で、2006年のドイツ・ワールドカップを前に彼のルーツを探るという取材で訪れた。

 事前アポは取らず、丘陵地帯にある人口1万8000人弱の村に出たとこ勝負で向かった。村のバールに飛び込んでみたら、壁に貼られたおびただしい数の新聞の切り抜きを見つけた。もちろん、すべてがトーニに関する記事だった。

【次ページ】 架空のバールを舞台にした小説はザックの愛読書

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