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「おまえの監督レベルはセリエCだ!」 ザックの愛読ベストセラー小説でも描かれた“イタリアの熱くて幸せなバール文化”とは
posted2021/12/28 17:01
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Takashi Yuge
月曜の朝、イタリア中のバールは週末の試合結果の話題で賑わう。
近所にある馴染みの一軒に出かけた僕は、仕事前の電気工事関係者や子供の登校に付き添う親たち、ご老人らでごった返す店内をかきわけ、カウンター越しに店主セバスティアーノを見つけて声をかけた。
「昨日のゴール取り消し、見た? あんな判定アリだと思う? VARがあっても運用が悪けりゃ……おっと俺、エスプレッソひとつね」
セリエA第18節のミラン対ナポリ戦で90分目の同点ゴールが無効とされたことに納得いかない僕を、ユベントス贔屓の店主が「まあ、気にすんな」となだめた。カウンターの脇では、最寄り署のベテラン警察官がインテルの首位固めを伝える新聞の見出しにニンマリ顔を浮かべている。
試合チケットもスタジアムそばのバールで買えた
カルチョの国のあらゆる街角にある「バール」は、エスプレッソやカプチーノ、アペリティーボ(食前酒)を嗜む喫茶店であり、新聞スタンドやタバコや宝くじを買えるキオスクであり、何より地域の人びとの悲喜こもごもが交わる場所だ。
国中にある大小のスタジアム近辺にもバールは欠かせない。
20年前、フィレンツェの「アルテミオ・フランキ」に初めて行ったときには、試合チケットもスタジアムそばのバールで買えた。ゴール裏席は9ユーロだった。
壁を埋め尽くす紫色のマフラーに混じって、当時のど根性MFディリービオのユニフォームが飾ってあり、試合前にはそこで地元ファンに混じって景気づけの一杯を飲んだ。
ワイン色の濃いサラミを何枚もはさんだパニーノを調達して、試合中にかぶりついた。試合後はFWシェフチェンコのゴールに祝杯をあげた。些細でも、そういうことがサッカー好きの人生に彩りを与えてくれる。
以来、スイスとの国境からシチリア島の南端までイタリア中を取材してきたが、不思議なことに国内(もしくは国外でも)あちらこちらに、“店内一面を水色に塗った”バールが点在する。フランチャイズとは無縁の話だ。