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駒大の絶対エース田澤廉が守った“カミの掟”… 丸刈り頭で駆け抜けた高校時代を恩師が振り返る《現チームは脱・丸刈り》

posted2021/12/26 06:01

 
駒大の絶対エース田澤廉が守った“カミの掟”… 丸刈り頭で駆け抜けた高校時代を恩師が振り返る《現チームは脱・丸刈り》<Number Web> photograph by Aomori Yamada High School

青森山田高時代の田澤(ゼッケンナンバー8)。今や駒大の絶対エースだ

text by

杉園昌之

杉園昌之Masayuki Sugizono

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photograph by

Aomori Yamada High School

 カミの掟は絶対だった。

 それは駒澤大学のエースで、1万mで日本歴代2位の記録をたたき出した田澤廉(3年)も例外ではなかった。青森山田高時代は、1年生のときから3年間、きっちり守り続けた。

 丸刈り頭である。

 洒落っ気など一切ない。昔ながらの高校野球児と同じそれだ。入学当初から上級生たちを凌駕するような走力を誇り、1年目から全国高校駅伝でエース区間の1区を走った男も特別扱いされることはない。田澤も当たり前のように陸上部の“掟”を受け入れ、素直にバリカンを入れた。

「いまの子どもたちは、丸刈り頭はすごく嫌がります」

 発売中の箱根駅伝特集で、田澤の速さの原点を知るために青森山田高の河野仁志監督のもとを訪ねた。河野監督は大事なレース直前でもスマホでゲームをしていたマイペースな田澤のことを懐かしそうに振り返りつつ、その丸刈り頭についても話をしてくれた。

「ほかのみんなと同じで、かわいい丸刈り頭でしたよ。本当は嫌だったみたいですけど……。強くなりたい一心でうちに来てくれました。でも、もう昔の話ですよ」

 もはや時代にはそぐわないのだ。冬の凍てつくような寒さ、年季が入った赤いタータンは昔と何ら変わらないが、いまの高校生たちは髪をなびかせながら校内のトラックを走っている。2020年10月から髪を伸ばすことを解禁したのだ。

「いまの子どもたちは、丸刈り頭はすごく嫌がりますから。入学も敬遠されるくらいです。髪を伸ばすことを認めてからは、選手たちもたくさん来るようになりました。来年は初めて10人以上の選手が入ってきます」

指導者の世代交代とともに「脱・丸刈り」も加速

 ここ数年、河野監督は青森県内の有力選手たちを勧誘するときに痛感していたのだ。ある年は声を掛けた全員に振られ、県外の北海道、秋田まで足を伸ばしたこともあった。

 ひと昔前までは全国の強豪校を見渡すと、どこも一緒の硬派な短髪ヘアが主流だったものの、近年は「脱丸刈り」が目立つ。同じ東北のライバル校で、東京五輪マラソン日本代表の服部勇馬(トヨタ)らを輩出している仙台育英高(宮城)をはじめ、全国大会8度の優勝経験を持つ西脇工高(兵庫)、今年度の箱根駅伝でスーパールーキーと騒がれている石田洸介らが育った東農大ニ高(群馬)、九州の強豪として名を馳せる大分東明高(大分)、鳥栖工業高(佐賀)など数え上げると切りがない。

【次ページ】 丸刈りが理由で選手が集まらなくなり、負けるのは……

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