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《大学ラグビー選手権》今年のキーワードは大田尾監督が発した「プレッシャーゲーム」優勝争いの中心にいる“早明帝”の現在地
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph bySankei Shimbun
posted2021/12/17 17:00
早大・大田尾監督が「プレッシャーゲームで必ずやってくれる」と期待するNo.8佐藤健次(1年)。早明戦ではプレイヤー・オブ・ザ・マッチに選出された
「コーチングでも伸ばせますが、持っていなかったら時間はかかります。たとえば、早明戦で最後のトライを取ったウィングの小泉、その前にオフロードパスを出したセンターの松下は、ひじょうにいい能力を持っていたんですが、去年の出場時間は少ないわけです」
小泉怜史(早稲田実)と松下怜央(関東学院六浦)はともに3年生。小泉は早稲田実業時代、U‐17代表にも選ばれ、激しい東京都の大会を勝ち抜いて花園出場の立役者となったが、大学ではBチームが主戦場だった。松下も昨季までの先発機会は散発的で、早明戦では主将のセンター・長田智希(4年/東海大仰星)の欠場を受け、13番として先発した。
つまり、大学レベルでの重圧がかかる試合での経験値が不足していたのである。大田尾監督は言う。
「指導者が考えなければならないのは、プレッシャーゲームで、当たり前のことを当たり前に出来なくなる選手が何人出てくるかということです。まあ、そのあたりも計算しながらメンバーを組むんですが。その意味では、今日の小泉と松下はひじょうによかったです」
たしかに時間はかかったが、多くの観衆が詰めかけた早明戦というプレッシャーゲームで、ふたりはようやく本領を発揮できるようになったわけだ。
この観点から考えていくと、早稲田は早明戦でプレッシャーゲームを経験し、しかも最後にカウンターからトライを奪って、勝利の味を噛みしめた。これは経験値の点で大きな収穫だ。
花園決勝を知る4人のBK
2年ぶりの覇権奪回に向けては、依然としてスクラムに大きな課題を抱えているものの、FWでは1番の小林賢太(4年/東福岡)、6番の相良昌彦(3年/早稲田実)、そして佐藤とプレッシャーゲームで力を発揮できる選手は多い。
また、BKは高校時代から重圧下で戦ってきた選手がそろう。肝心な場面でトライを奪うSH宮尾昌典(1年/京都成章)、SO伊藤大祐(2年/桐蔭学園)、主将のCTB長田、そしてFBの河瀬諒介(4年/東海大仰星)と、花園で決勝の舞台を経験した選手が4人もいる。
特に、長田と河瀬は高校3年生の時には花園で優勝、そして2シーズン前は大学選手権決勝で、明治相手に決定的な仕事をしており、プレッシャーゲームでのパフォーマンスの安定性は実証済み。
いや、プレッシャーゲームほど、さらに力を発揮するタイプだ。