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ストイコビッチの「NATO空爆抗議」を思い出す… “日本でプロ選手”になったミャンマー難民GKがブチ当たる苦悩とは 

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木村元彦

木村元彦Yukihiko Kimura

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photograph byKentaro Takahashi

posted2021/12/19 17:00

ストイコビッチの「NATO空爆抗議」を思い出す… “日本でプロ選手”になったミャンマー難民GKがブチ当たる苦悩とは<Number Web> photograph by Kentaro Takahashi

YS横浜入団会見の際のピエリアンアウン。フットサルプレーヤーとして、葛藤を抱えながらのプレーが続いている

 祖国への無差別攻撃が始まった4日後、ピクシーはヴィッセル神戸との公式戦に出場していた。グランパスのエースは終了間際の後半44分、FW福田健二に絶妙のラストパスを通して、そのゴールを見届けると、ユニフォームをたくし上げてTシャツに記した「NATO STOP STRIKES(NATOは空爆を止めよ)」との文字を晒したのである。

  必ず試合で結果を出すという自信が無ければできないアクションに驚きながら、「よくゲームに集中できたね」と声をかけると、意に反する答えが返ってきた。

「集中? プレー中もずっと故郷のことを考えていたよ」

 フィールドの妖精は硬い表情を変えなかった。

 祖国が戦時下にあれば、ストイコビッチほどの選手でもことほど左様に気持ちを切り替えることは、困難であるということを私は目の当たりにしていた。

 NATOのユーゴ空爆は3カ月で停止したが、ミャンマーの軍事独裁政権は不当なクーデターによる権力奪取でありながら、終焉の兆しどころか、数年後に選挙を行うことまで宣言している。ピエリアンにとっては断じて認めたくない状況が、既成事実化されつつあり、立ち上がった市民たちは、相変わらず銃撃や逮捕の危機に晒されている。心中を察するにあまりある。

GKとしての実力で勝負しなければならない

 しかし、アリーナにおいて彼は政治難民である前にフットサル選手であり、その世界は実力のみで評価される。戦力にはならないと判断がされれば、当然、メンバーに入ることはできない。GKコーチの田中匠は「通常局面はいいプレーを見せてくれるが、ボールを急に振られたり、イレギュラーで抜けて来た特殊局面での立ち振る舞いが足りていない。我々は、彼の成長のためにも彼がトライしていく姿勢を求めないといけない」とその判断を語った。

 この日、ピエリアンはスタンドでの観戦となった。ラファの好プレーに拍手を送り、淡々と試合の展開を見守る表情からは、ベンチ外になったことに対する剥き出しの口惜しさや、鬱屈した感情を読み取ることはなかった。ゲームは1対3で首位・湘南ベルマーレに敗れた。

ベンチ外選手としては異例の試合後記者会見

 試合後には報道陣からの要請があり、急遽ピエリアンの会見がセットされることになった。

 メンバーから外されていた選手が囲み取材ではなく、試合後の記者会見に出る。前代未聞のことで、たまたま観戦に来ていたルームメイトのミャンマー人、ウインチョータンに通訳が依頼された。ところが、あまりに突然のことで、タンはクラブのサプライヤーと異なるスポーツブランドのTシャツを着ていた。あわてて黒いスウェットを羽織るという一幕があった。

 会見でピエリアンは、抑揚を抑えた声で言った。

【次ページ】 「現在のパフォーマンスを見ての判断」

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