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「彼らに何もできていない。申し訳ない」 難民GKがぬぐえずにいた、日本とミャンマーの仲間に対する“沈痛な思い”
posted2021/12/19 17:01
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph by
Naoki Morita/AFLO
「ただなあ、本人から自分は絶対に試合に出るんだ、というガツガツした気持ちが感じられないことが、気になったなあ」
誰からともなくそんな会話になった。このミャンマー人には謙虚という美徳が骨の髄まで沁みている。8月の入団発表会見の発言の中にもあったが、日本に残ったことに対しての畏まりが、ときに強く感じられるのだ。
「ここにいさせてもらっているという気持ちが……」
「私は日本で難民申請をしてこれを認定していただきました。母国ミャンマーでは、無辜な市民が発砲を受け、逮捕され続けるという酷い状況になってしまいました。私はその軍事独裁に対する抗議の意思を表明したのです。それで帰国できなくなって一時的に日本に残留し避難させていただきたいと言うお願いをしたわけです。これについて、私やクラブを批判される日本の方々に対し、心からお詫び申し上げたいと思ったから、申し訳なかったという発言を続けたのです」(9月14日、ノアフットサルコートにおける会見での発言)
「そうだ難民しよう!」というヘイト漫画家のはすみとしこ氏が難民を誹謗中傷したイラスト集がある。「何の苦労もなく 生きたいように生きていきたい 他人の金で。そうだ 難民しよう」などと書かれたこの本は、恥ずべきことに刊行当時、日本の難民関連書籍で最も売れたのである。
この本の存在を私の友人はシリア難民から教えられた。難民申請者や認定難民は、世論に極めて敏感である。入管関係のネットニュースのコメント欄を見れば、難民ヘイトが呆れ返るほどに氾濫している。ピエリアンについても「三本指を出しただけでできる楽な難民」「カネ目当てで日本に残ったやつ」等々。
難民認定は当然与えられるべき権利を行使したまで
今どき、それらを翻訳ソフトで読むことは可能だ。だから、YS横浜の入団記者会見で彼は感謝というよりも謝罪の言葉を紡いだ。
あれ以降も自分は日本にいてはいけないのではないか、そんな意識がぬぐえずにいるのかもしれない。しかし、そんなことを思う必要は微塵も無い。難民認定は当然な権利の行使であり、何とならば、あのミャンマー軍政に日本が加担し続けて来たのは紛れもない事実である。ミャンマーの現場を取材した上でピエリアンを追い続けている日本人記者たちは、大なり小なり、誰もがその当たり前の贖罪意識を持っている。
この日もゴール裏にいた『ミャンマー政変』(ちくま新書)の著者で東京新聞前バンコク支局長の北川は、このように話す。