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甘くない現実を突きつけられたミャンマー難民GKがついに… 「1分強で2失点」の初陣で覚醒した“サッカー選手の本能”
posted2021/12/19 17:02
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph by
Kentaro Takasaki
11月2日。監督に自分がベンチ入りをするためには、何が足らないのか、それを埋めるためにはどういう課題に取り組むのが良いのか、監督に直接聞きに行ったらどうかと私はピエリアンに提起した。
「監督に自分から話を聞きに行くなんてミャンマーでは考えられない」
「いや、それはチームのためにもやるべきことだと思う」
そんなやりとりをした。私には後にアーセナルの名将となるアーセン・ベンゲルが名古屋グランパスを率いていた頃、DFの谷口圭が村上剛通訳を介して、「時間を頂けますか」と呼び止めていたことが記憶に残っていた。
谷口は高卒3年目の若い選手だったが、「自分がトップチームの試合に出るには何が必要なのか」と食いつくように質問をしていた。ベンゲルは「君は攻守の切り替えをもっと速くする必要がある」と即答していた。そこにベンゲルのチームの強さを見る思いだった。特に前田監督はそのコミュニケーションを望む指導者であった。
課題を挙げる前に述べた感謝の言葉
練習後、意図を理解した前田は笑顔でピエリアンを迎え入れると、どうせなら気持ちのいい場所で話そうと、トレーニング場横のデッキ2階に自らテーブル席をセットしてくれた。
前田は課題を挙げる前に、まず感謝を述べた。
「アウンは生活も含めた難しい状況の中でも仕事にフットサルに取り組んでいる。そしてチームにファミリーのような雰囲気を作ってくれている。君の取り組みは素晴らしい。ありがとう」
対してピエリアンは、自分が練習にフィットしていないのではないかという不安をぶつけた。
「もしも私がトレーニングの意図を違って理解していたり、うまくできていなかったら、ごめんなさい」
コミュニケーションの問題を自ら口にした。前田もまたそれを指摘した。
「練習の態度もポジティブで真面目だし、技術的にはこれを続けていってくれれば必ずパフォーマンスも上がってくる。大きな問題は言葉。これのスキルを上げていって欲しい」
味方がミスをした時のふるまいを重要視している
前田には練習や試合において特に注意して選手を見ているポイントがある。それは味方選手がミスしたときにどうふるまうか、という一点である。ミスをしない人間などいない。そのミスを咎めるのではなく、いち速くフォローに回って助けるという行為ができる選手なのか否か。全員がチームのために動くという気持ちを共有しなくてはいけない。
その気持ちに優劣は無く、監督も含めて、上下ではなく、丸いサークルになろうというのが、前田のチーム作りの根幹であった。
「そのためには、ひとりになってはいけない。人は違うから面白い。そして違いを認めて仲間になる。僕らがアウンと(フットサルを)やりたいと思うのも日本と違う価値観を持っている人と出逢って学びたいからなのだよ」