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「見てはいけないものを見てしまった…」桜庭和志と“戦慄の膝小僧”ヴァンダレイ・シウバの凄惨マッチでカメラマンが抱いた罪悪感 

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長尾迪

長尾迪Susumu Nagao

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photograph bySusumu Nagao

posted2021/12/04 17:03

「見てはいけないものを見てしまった…」桜庭和志と“戦慄の膝小僧”ヴァンダレイ・シウバの凄惨マッチでカメラマンが抱いた罪悪感<Number Web> photograph by Susumu Nagao

PRIDEのルール変更により、桜庭和志は4点ポジションでヴァンダレイ・シウバの蹴りを受けることに。この試合をきっかけにシウバは絶対王者へと駆け上がり、桜庭の成績は下降線をたどった

 桜庭の対戦相手は青木真也。青木は世界のベルトも何本も腰に巻いたことのある強豪だ。桜庭にとってはかなり厳しい試合になることが予想されたが、やはり結果は惨敗だった。現代MMAの最先端をゆく青木は強く、どちらかと言えばオールドスクールの桜庭のMMAは歯が立たなかった。グラウンド状態で強烈なパウンドを受け続け、レフェリーが試合を止めたのだが、桜庭は最後までタップをしなかった。桜庭は絞め技でタップすることはあっても、打撃ではなかった。これもプロレスラーとしての誇りだったのだろうか。

桜庭が語った「プロレスラーとしての矜持」

 2018年、桜庭はQUINTET(クインテット)という寝技の格闘技大会をスタートさせた。ルールも自分で考え、試合では膠着禁止。5人1チームによる勝ち抜き制の団体戦を導入し、選手が常にアグレッシブに一本を狙えるよう大将戦以外に判定はなく、勝敗は失格を除けば絞めか関節技のみで決まる。選手たちには桜庭の信条としている「魅せる」試合を望んだ。もちろん桜庭はプロデューサー兼選手として、旗揚げ戦に参加した。

 QUINTETでは一切の打撃が禁止されているので、感情的で凄惨な試合になることはなく、選手間同士の遺恨も生まれにくい。試合後には爽やかな表情をしている選手も多い。観客は試合の展開の早さ、一瞬で決まる関節技に魅了される。明るく楽しく華のある真剣勝負は、桜庭にとっての理想郷のような気がする。

 桜庭の戦いの歴史は日本のMMAの歴史でもある。当時、難敵グレイシーから一本勝ちした選手は、世界でも桜庭ただひとりだった。MMAがグレイシー柔術を中心に回っていたあの時代、「彼らは決して勝てない相手ではない」ということを証明し、世界中の格闘家に勇気を与えた彼の偉大な足跡は、間違いなく永遠に語り継がれていくだろう。

 少しだけ私の個人的なわがままを言わせてほしい。それは桜庭とヒクソン・グレイシーとの対戦だ。ヒクソンは既に引退しているので、桜庭とMMAの試合をすることはできない。それならば、グラップリング(組み技)の試合はできないだろうか。それが無理なら、エキシビションでもいい。私は両者が同じリングで組み合う姿を見たいのだ。

 最後にUFCの殿堂入りのときの桜庭スピーチを抜粋する。

「ボクはアスリートであると同時にプロレスラーです。プロレスで学び、プロレスから吸収した細胞がDNAとして染み付いています。お客さんに伝わる試合をすること、それがプロレスラーとしてのボクの矜持です」

 魅せることこそがプロである。そんな桜庭の活躍を、私はこれからも撮り続けていきたい。

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最強のプロレスラー・桜庭和志はなぜ試合中に微笑んだのか…「格闘技史に残る一枚」のカメラマンが語る“グレイシー狩り”の衝撃

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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