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「見てはいけないものを見てしまった…」桜庭和志と“戦慄の膝小僧”ヴァンダレイ・シウバの凄惨マッチでカメラマンが抱いた罪悪感 

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長尾迪

長尾迪Susumu Nagao

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photograph bySusumu Nagao

posted2021/12/04 17:03

「見てはいけないものを見てしまった…」桜庭和志と“戦慄の膝小僧”ヴァンダレイ・シウバの凄惨マッチでカメラマンが抱いた罪悪感<Number Web> photograph by Susumu Nagao

PRIDEのルール変更により、桜庭和志は4点ポジションでヴァンダレイ・シウバの蹴りを受けることに。この試合をきっかけにシウバは絶対王者へと駆け上がり、桜庭の成績は下降線をたどった

 私は桜庭がHERO’Sへ移籍する前後あたりから、彼の試合を撮影することが辛く感じるようになった。組み技主体の選手との試合は非常に興味深く、特に寝技の攻防は撮影のやり甲斐があった。しかし、打撃を得意とする選手との対戦は、パンチをまともに被弾することが多くなり、痛々しいのだ。年齢を重ねれば重ねるほど反射神経は鈍くなる。若いときなら避けることができた打撃に、身体が反応しなくなっていた。

 リングサイドで撮影する私にも同じ感覚がある。以前なら撮れていた瞬間的な写真が、微妙なタイミングで遅れてしまうのだ。ただ、私の場合はカメラの進歩に助けられた。36枚しか撮れないフイルムカメラから、無制限に撮れるデジタルカメラに変わった。一瞬を狙う撮り方から、撮り始めるタイミングを早めることで決定的な瞬間を逃さない撮り方に変えた。それにより今日まで最前線で仕事を続けることが出来ている。

 リング上の選手は、己の身体だけがすべての武器である。だからこそ、現役で試合をする限り、年齢という壁は常につきまとってくるのだ。

突如カムバックしてRIZINに“恩返し参戦”

 2007年6月、ロサンゼルスで行われた桜庭の試合は非常に印象的だった。リングサイドでニコラス・ケイジをはじめとするハリウッドスターが観戦する中、桜庭はセミファイナルに登場。ホイス・グレイシーとの7年ぶりの再戦だった。ホイスは典型的な組み技の選手だ。日本での試合のように過度な期待やプレッシャーもない中、桜庭は実にのびのびと試合をしていた。これが桜庭本来の試合スタイルである。まるでホイスとの再会を試合で楽しむような、明るいファイトだった。この大会は屋外ということもあり、ときおり吹く夜風も心地よく、試合には判定で敗れたものの、桜庭の生き生きとした姿が印象的だった。

 2010年5月から2011年9月にかけて、桜庭はキャリア初の4連敗を喫した。このまま引退かと思われたが、2015年の年末に突如、カムバックすることになった。この年、榊原信行氏が新しい格闘技団体RIZINを立ち上げ、そのイベントに参戦したのだ。榊原氏はPRIDEの立ち上げメンバーの一人で、2003年からは社長としてその手腕を発揮。日本にMMAを根付かせた人物だ。PRIDEは2007年にズッファ社(UFCの運営会社)に売却され、消滅した。この突然とも思える桜庭の復帰は、PRIDEでお世話になった榊原氏への恩返しだったと、私は思う。

【次ページ】 桜庭が語った「プロレスラーとしての矜持」

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