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競馬PRESSBACK NUMBER
《絶叫の有馬記念》「あのディープが届かない…」無敗の武豊&ディープインパクトが負けた日
text by
勝木淳Atsushi Katsuki
photograph byKYODO
posted2021/12/24 17:01
無敗馬のディープインパクトと武豊騎手を退け、2005年の有馬記念を制したハーツクライとC・ルメール騎手
ハーツクライは日本ダービー4コーナー17番手から2着など、ディープインパクトのひとつ上の世代を代表する末脚自慢だった。だが、日本ダービーでキングカメハメハに及ばなかったように、後方から追い込むも一歩及ばず2着、これがGⅠで3度もあり、無冠のまま4歳秋を迎えていた。
陣営は秋シーズンを短期免許(※2)で来日したクリストフ・ルメール騎手に委ねた。
(※2:JRAに所属していない外国人騎手に1カ月単位で交付する免許制度)
緒戦の天皇賞・秋はスローペースも手伝い、いつもより前の中団から末脚を繰り出すも6着。続くジャパンCでルメール騎手は前走を踏まえ、タップダンスシチーが作るペースを読み、ハーツクライが得意とする後方待機策に戻した。ただし、これまでの大外強襲ではなく、距離ロスを減らすべく、4コーナーでインを突き、馬群に突っ込みながら追い込んでみせた。ゴール前では先頭に立つアルカセットをはるかに凌ぐ脚色で迫るも2着。この競馬でルメール騎手は確信したにちがいない。ハーツクライは馬群に入っても最後まで末脚を使えると。
そして有馬記念。もはや相手はディープインパクト一頭。この馬を負かさないことには勝利はない。ルメール騎手は戦略を練った。舞台は中山芝2500m、ディープインパクトの末脚に対抗するためにハーツクライにどんな競馬をさせればいいのか。
3コーナー手前のゲートを出たハーツクライは、後方に下がらず、好位にとりつく。ルメール騎手の選択は積極策。天皇賞・秋、ジャパンCから導き出したディープインパクトを負かすための秘策だった。
ラスト310mの直線、大観衆の絶叫が響いた
追い込みが定位置のハーツクライが正面スタンド前を3番手で駆け抜ける。16万人を超える観衆でむせかえるスタンドがこの違和感にざわつく。それでもディープインパクトが4コーナーで先行集団の真後ろにやってきたときには、これぞディープと大歓声。しかし、ルメール騎手はディープインパクトが外から追いあげる、この瞬間を待っていた。ここしかないというタイミングでハーツクライにゴーサインを送り、先頭に立つ。
ディープなら届く、届くよね、届くでしょ、届いてくれ。いや、届かない──。