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競馬PRESSBACK NUMBER
武豊“ユタカスマイル”が消えた…失意の凱旋門賞、薬物疑惑からディープインパクトはどう甦ったのか?
posted2021/12/24 17:00
text by
小川隆行Takayuki Ogawa
photograph by
フォトチェスナット
競馬を愛する執筆者たちが、ゼロ年代後半の名馬&名レースを記した『競馬 伝説の名勝負 2005-2009 ゼロ年代後半戦』(星海社新書)から一部を抜粋して紹介する〈ディープインパクト編/ハーツクライ編に続く〉。
「よくわかりません」――確か、こんなコメントだったと記憶している。合田直弘さんにマイクを向けられた武豊騎手は、一言だけ語ると、立ち止まることなくその場を後にした。
2006年10月1日深夜。凱旋門賞に出走したディープインパクトに、日本中の競馬ファンが熱い視線を注いだ。現在と異なり馬券は買えなかったが、日本競馬史上最強馬が日本競馬の悲願を達成する、その瞬間を目にしたい、と多くのファンがNHKにチャンネルを合わせた。近年こそフジテレビの番組内で中継をされているが、当時はCSのみの放送がメインであり、NHKが中継するのは、ファンの期待の表れだった。日曜深夜の放送における視聴率は16パーセントを超えている。
直線に入り、残り300m。先頭に立ったディープインパクトの鞍上・武豊は追い出し始めた。手ごたえは十分。決して早仕掛けではない。「勝てる!」と多くのファンが声援を送った次の瞬間、ディープより3・5キロ軽いレイルリンクが先頭でゴール。外のプライドにも交わされ、まさかの3着に敗れた。
「今は何も語りたくない」武豊の表情は青ざめていた
デビュー以来、後方から来た馬に差されたのは初めてだった。ゴール直後の、武豊の落胆ぶりは生半可ではなかった気がする。
冒頭の受け応えはレース直後のものである。普段の笑顔はまるでない。顔色は青ざめている。「ユタカスマイル」とは正反対の「今は何も語りたくない」という感情が読み取れた。
この原稿を書くためにレースVTRを見直したが、武豊の騎乗ぶりにマイナス点など感じられない。敗因は、一瞬の仕掛けのタイミングによる勝負のアヤ。そんな気さえする。
レース前、武豊は次のようなコメントをしていた。