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競馬PRESSBACK NUMBER
《絶叫の有馬記念》「あのディープが届かない…」無敗の武豊&ディープインパクトが負けた日
posted2021/12/24 17:01
text by
勝木淳Atsushi Katsuki
photograph by
KYODO
競馬を愛する執筆者たちが、ゼロ年代後半の名馬&名レースを記した『競馬 伝説の名勝負 2005-2009 ゼロ年代後半戦』(星海社新書)から一部を抜粋して紹介する〈ハーツクライ編/ディープインパクト編に続く〉。
大川慶次郎氏(※1)は、予想ファクターに展開を持ち込んだといわれる。これはレースがスローなのかハイペースなのかを推理することで、レースの流れを読み、有利な馬、不利な馬をあぶり出すという画期的なものだった。競馬には必ず流れがある。先手を奪いたい馬が複数いるレースといないレースでは有利なポジションは大きく異なる。展開予想は今ではみんなそれぞれが考える。いわば常識といっていい。
(※1:パーフェクト予想を4回達成、「競馬の神様」と称された競馬評論家。明治時代の実業家・渋沢栄一のひ孫)
競馬はなにが起こるかわからない。自信の展開予想も逃げ馬が出遅れれば、その時点で崩れゆく。控えると考えていた馬が折り合いを欠きながら先行集団にいたとき、自分の浅はかさに天を仰ぎたくなる。なにが起こるかわからないからこそ、なにかが起きる。そして競馬でなにかを起こせるとすれば、それは先行馬であるといわれる。競馬に流れがある以上、流れを支配できる者が勝者に近づく。先行馬にはレースの支配者になりうる可能性がある。流れを味方につけられるのは差し馬ではなく、先行馬なのだ。
“ディープインパクト一色”有馬記念での衝撃
2005年の競馬界は一頭の英雄一色に染まっていた。その名は、ディープインパクト。シンボリルドルフ以来2頭目の無敗の三冠馬である。どのレースも序盤は後方を進み、最後の直線で飛ぶようなフットワークで前にいる馬をすべてかわす、馬名の通り衝撃的な競馬で人々を魅了した。同世代との戦いを無敗で終えたディープインパクトがこの年、最後に出走したレースが有馬記念だった。ファン投票は16万票を獲得、単勝オッズ1.3倍、この年のフィナーレはだれもがディープインパクトがしめるものだと信じていた。
しかし、最後の直線、いつものように末脚を伸ばしたディープインパクトの前にはハーツクライがいた。
これまでのディープインパクトのレースでは止まってみえるはずの先行馬が止まらない。ハーツクライはディープインパクトが経験したことのない力で抵抗し、ゴール板で見事に封じ込めてしまった。ファンは一瞬、金縛りにでも遭ったかのように自失した。
負けるはずがない英雄の敗戦を受け入れるためには時間が必要だったのだ。まして差し馬ハーツクライが先行していたこと自体が信じられなかった。
ディープインパクトを負かすための秘策
ハーツクライの勝利には伏線があった。