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藤井聡太“竜王”の優勝賞金4400万円、羽生善治“七冠”時は総額1億6500万円、無冠の今は?〈意外と知らない棋士の収入事情〉
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟
posted2021/12/01 11:05
藤井聡太四冠が栄光を掴んだ竜王戦は優勝賞金が4400万円だ
藤井人気によってパイが広がることが期待される
1980年代から90年代は、竜王戦や名人戦などの棋戦契約金が着実に増額され、連盟の運営は安定していた。しかし2000年代からは、ネット化の移行による活字離れ、発行部数や広告収入の減少などによって、新聞社の経営環境が変わってきた。棋戦契約金は増額されるどころか、据え置きか減額というのが実情である。
前述のように、1996年と2020年の賞金・対局料ランキングのベスト10の総額がほぼ同額というのは、そうした背景による。ただ近年は、藤井の活躍と人気が高まったことによって、プロ公式戦に協賛する企業が増えている。パイが広がって将棋界が活性化していくことが期待される。
なおメディアは「8大タイトル」という文言をよく使うが、正しくは「8タイトル」である。そのうち棋戦契約金が突出して高い竜王戦と名人戦が「2大タイトル」といえる。
「参稼報償金」と「賞金・対局料」の二本立て
では、竜王戦は優勝賞金を公表しているが、名人戦で優勝した棋士の賞金はどのぐらいなのか……。
棋士が将棋連盟から支給されるのは、「参稼報償金」と「賞金・対局料」の二本立てになっている。
前者は、順位戦の在籍クラス(名人を含む)、各タイトル戦の実績などを基準とした「基本手当」である。その年俸は12等分されて毎月支給されるので、棋士は給料とよく言ったが、実際は個人事業主なので事業収入に当たる。棋士が豊かではなかった昔の方式が、現代でも残っている。名人の賞金は、参稼報償金の中に含まれていて不明だが、高額であることは想定できる。
そして後者は、名人戦・順位戦以外の棋戦の賞金と対局料。勝負によって各棋士の収入が違う「出来高」である。
公益社団法人の将棋連盟は、賞金を大盤振る舞いして赤字にするわけにいかない。経済規模に沿った運営をしている。したがって棋士の収入は、全般的に高くない。ただスポーツ選手と比べると、現役期間が長いメリットがある。
ちなみに、私は1972年に21歳で四段に昇段して棋士になり、2016年に66歳で引退した。大した実績を挙げられなかったが、45年間も現役を「細く長く」続けられた。
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