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藤井聡太“竜王”の優勝賞金4400万円、羽生善治“七冠”時は総額1億6500万円、無冠の今は?〈意外と知らない棋士の収入事情〉
posted2021/12/01 11:05
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
日本将棋連盟
私こと田丸九段が日本将棋連盟の出版担当理事だった1990年の頃。発行する『将棋世界』誌で、棋士の賞金・対局料ランキングを初めて公表することにした。それ以前は、棋士が対局で得た金額が表に出ることはなかった。
1987(昭和62)年に創設された竜王戦が賞金・対局料を明示、10代のニューヒーローの羽生善治の活躍、囲碁棋士の小林光一棋聖が年間に1億円を獲得など、時代が変わりつつあった。トップ棋士の収入が増え、公表するのにふさわしい金額にもなった。前述のランキング公表は反響を呼び、一般紙の記事にも取り上げられた。
1990(平成2)年の賞金・対局料ランキングで、1位は谷川浩司三冠の6310万円。2位は中原誠名人の6180万円。1989年に竜王を19歳で獲得して3000万円の優勝賞金を得た羽生善治竜王は、5230万円で3位に入った。※金額はいずれも推定で、10万円未満は省略。以下も同じ。タイトルを獲得した棋士が、ランキング上位に名を連ねた。
六冠となった1993年の羽生が“大台突破”
羽生はその後、タイトルを数多く獲得し、同ランキングで1位に続けて入った。1993年には初めて1億円を突破した。1995年には竜王、名人など六冠を取得し、1億6500万円で最高額を更新した。前人未到の「七冠制覇」を達成した1996年は、前年とほぼ同額だった。なお羽生はタイトル賞金や対局料のほかに、CMやイベント出演、書籍の印税、講演などで副収入が多かった。
国税庁が発表した1998年の納税者ランキングによると、羽生は約7500万円(推定所得は約1億5300万円)で、「その他」部門で上位に入った。
2020年の賞金・対局料ランキングを見てみると、1位は豊島将之竜王の1億640万円。2位は渡辺明名人の8040万円。3位は永瀬拓矢王座の4620万円。タイトルが無冠となっている羽生九段は6位の2490万円。全盛期の2割以下の金額で、これが勝負の世界の現実である。
2020年と25年前のベスト10の総額がほぼ同じ?
なお1996年の同ランキング・ベスト10の総額は、約4億3000万円だった。2020年の同ランキング・ベスト10の総額は、25年前とほぼ同額である。棋士の収入が頭打ちになっている背景については後述する。