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「藤井聡太竜王の序盤力がAI研究によって…」タイトル経験者・中村太地七段が語る19歳最年少四冠の《半端ない進化》
posted2021/12/02 11:03
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph by
Kyodo News
藤井(聡太)竜王が竜王戦4連勝で史上最年少での四冠となり、王将戦挑戦者決定リーグ戦も並み居る実力者相手に勝利し、一戦を余して挑戦者に決定しました。ここ数カ月の戦いぶりを見ていると……同じ棋士という立場ですが、異次元のところに到達しつつある、止まらなくなってきていると感じざるを得ません。それは将棋界全体で共有している部分と想像します。
AIによる研究で序盤戦術が明らかに変わった
私自身、今年3月に順位戦で対局しました。その際は心理面などを中心にお話しましたが……今回は少し視点を変えて「藤井将棋の進化」について考えると、序盤戦術が明らかに変わった印象で、そこの伸びが“半端ではない”と感じています。
藤井竜王と言えばデビュー直後からの29連勝で大きなインパクトを残しました。
ただその中には負けてもおかしくない、絶体絶命だった対局がありました。藤井竜王が“将棋の神様”的な何かに守られているように勝った。そう感じられるほどでしたが――技術的には、序・中盤ではかなり出遅れてしまう傾向があったのです。
しかしAIを使って鍛えていくうちに、2、3年前から序・中盤で出遅れず、互角くらいで推移できるようになりました。そうすると藤井竜王最大の持ち味である中・終盤の力が活きて、なかなか負けなくなってきた段階に入りました。
そしてこの1年で、別次元に入った印象があります。研究がさらに深まって、むしろ《序盤で相手を少しリードする》ほどのレベルに行きついているのです。
渡辺名人、豊島九段相手にも研究将棋で同等以上に
その戦いぶりについて……豊島(将之)九段との対局が象徴的かな、と感じています。
藤井竜王は豊島九段に対して当初、負けが込んでいました。時間の使い方を見てみると、豊島九段がババッとノータイムで指し、藤井さんはずっと序盤から考えながら答えを導き出して互角で乗り切る、もしくは一気に序盤不利になるケースが定番の形でした。
しかし直近は非常に素早く手が進みながらも、藤井さんの方がさらに一手早い、一歩深い研究にある対局が見受けられます。これが信じられないことです。豊島九段、そして渡辺(明)名人は、将棋界の中で1、2を争う研究の深さで有名な棋士なのですから。
そんなおふたり相手に出遅れないという時点で素晴らしいのに、逆にリードを奪ってしまう場合もある。それほどまでの序盤戦術になったのは明らかな伸びだと思います。