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プロ野球スカウト評は「肩はプロにも負けない」「でも今の捕手は打てないと…」広島の大学に見つけた“鉄砲肩”「石伊キャノン」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byYuki Suenaga
posted2021/12/01 17:04
近畿大工学部捕手・石伊雄太(3年・178cm80kg・右投右打・近大工業高等専門学校)
近大工学部・石伊雄太捕手のスローイングについてのスカウト評だ。
「でも、今のキャッチャーは、打てる!ってことも大事。それ考えると、今日の内容じゃ、話にならないよね、きつい言い方になるけど。いや、三振3つでもいいんですよ、自分のスイングしてくれれば。でも、今日のは、全部おいかけて……振ったんじゃなくて、振らされてたでしょ。彼の本来の“スイング”すら、見せてもらえなかった」
スカウトの見方は手厳しい。
「あれで秋のリーグ戦では、ホームラン2本打ってますからね。あのリーグのピッチャーのレベルなら、いくらかは打てるようになってきている。それも現実ですよ。でも今日の3三振が消せるかっていったら、それはできない。3年生なんだから、これから来年にかけて、努力して上手くなってくれれば、いいんです」
石伊雄太捕手の秋2ホーマーを、伊藤元監督はご存知だった。
「大学の練習会に連れて行った時は、木のバットで外野のフェンスにも届かなかったんですから、本人、相当練習したんでしょうね。とにかく真面目で、人がやってなくても1人で練習できる生徒でした。3三振っていうのも、初めての全国の舞台で、しかも4番で、打たなあかん、打たなあかんって意識過剰になり過ぎて、ちょっとバタバタしたんかなぁ」
「巨人に行った鬼屋敷とは、全く違うタイプのキャッチャー」
この日の第2試合、「高校の部」でも、前評判の高い強肩捕手が登場した。
九州国際大付属高・野田海人捕手(2年・174cm75kg・右投右打)。
一部で、「野田キャノン」という表現で、球界有数の強肩捕手・甲斐拓也(ソフトバンク)になぞらえた報道があった捕手だったので、楽しみにして球場に向かった。
クラーク国際高(北海道)を5対1で破ったこの試合。確かに、地肩や腕っぷしは抜群の強さで驚いた。
これから先、肩やヒジを故障しないためにも、フットワークで投げるメカニズムを覚えて、特に、右打者の外角を捕球してからの二塁送球で、右の股関節がグッと中に入ってくるようになれば、送球コースがブレることも減って、今の一級品の地肩が、さらに「実戦力」を増すはずだ。
幸い、九州国際大付・楠城徹監督は、早稲田大の捕手当時、地を這うような股関節の動きを起爆剤に、スローイングをしておられた方だ。
下半身を使ったスローイングを勉強するにはうってつけの方が、すぐそばにいる幸運をムダにすることはない。マネしようとして、何度も安部球場に通ったが、凡才の私にはとてもマネできなかった。
伊藤元監督は石伊について最後にこう語った。
「高校時代の石伊は、肩以外、それほど目立つ生徒じゃなかった。きっと大学でいい指導を受けて、持ち前の真面目さで、全国に出られるようなチームの主軸になれたんだと思います。プロに行った鬼屋敷は、打つのも投げるのも、パワーは抜群でした。石伊の場合は、柔軟性と考える力が数段上だと思います。頭がキレて、いろんなことを感じられるアンテナを持っている。鬼屋敷とは、全く違うタイプのキャッチャーですけど、石伊は石伊なりの持ち味で、“逸材”と言っていただけるようになったら、彼の高校時代の3年間を共に過ごした者として、こんなに嬉しいことはありませんね」