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「美しさはロシアに移り変わってしまって…」 まるで職人技のように採点…体操の日本人審判員が語る《美しさ》への願いとは
posted2021/11/09 11:01
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Ryosuke Menju/JMPA
難しいのは演技の見極めだけではない。演技後は20秒以内に専用機器へ評価を入力する必要がある。そのため、演技中は視線を選手に向けたまま、オリジナルの用紙に技、難易度、減点を迅速かつ、明瞭に書き込まなければならない。
実演してもらうと、用紙を一切見ずに書きこんでいるにもかかわらず、文字列が等間隔できれいに並んでいることに驚く。もはや職人技といっても過言ではない。
技の表記には規定があるが、義務ではないため自身が考案したオリジナルのものを使っている。過去の大会で記録したものはすべて保存し、「あの選手が昔どのような演技をしていたのか、そのメモを見ればすぐに分かる」という。
「(審判の)試験などのときは規定のものを使用することになっていたのですが、(FIGの中で)実はそれが少し分かりづらいという話になったんです。そのときに『日本人はまったく下を見ないで書いているよね』『日本の表記の仕方を教えてくれ』となり、私が使っていた表記がいくつか世界共通で使われるものになりました。ただ、やはりこれも進化していくもので、さらにひねりが加わったり、何かを足したり……と、完成版はこれからもどんどん変わっていくと思います」
五輪担当審判も狭き門である
高橋が東京オリンピックに審判として派遣されることが決まったのは、2020年の頭だった。オリンピックを担当できる審判は各国1名。選手同様、審判にとっても狭き門なのだ。
「2008年北京五輪までは各国2名派遣することができていたんですが、2012年ロンドン五輪からは各国1名となり、国際体操連盟からの指名制となりました。もちろん、日本人が審判員に選ばれると確約されているわけではありません。そんななかで今回、自国で行われるオリンピックに選ばれたということで非常に光栄でした。ただ、それ以上に責任の重さも痛感しましたね」
オリンピックに向けて準備し、大会期間中は神経をすり減らすような日々を送ってきた。すべての任務を終えた直後は、燃え尽き症候群のような状態になるほどの重責だったという。