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「美しさはロシアに移り変わってしまって…」 まるで職人技のように採点…体操の日本人審判員が語る《美しさ》への願いとは
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byRyosuke Menju/JMPA
posted2021/11/09 11:01
東京五輪団体では銀メダルだった体操ニッポン。再び頂上に戻ってくるために必要なこととは?
このように体操競技のジャッジは難しい仕事だが、選手の技術力向上によって採点が複雑化し、その見極めはより難しくなってきているとも言われている。ジャッジする当の審判はどう考えているのだろうか。
AIによる支援システムもあるが、芸術的な領域は
近年では2019年の世界選手権の一部の種目で人工知能(AI)を利用した自動採点システムを取り入れ、より正確な採点を実現するための試みが行われている。
「単純に角度や向き、着地が1歩動いたとかひねりの数の確認、ラインを出たかどうかなどは、AIの方が絶対的な安定性があって正確だと思います。そういった客観的な評価に関してはAIを導入していくのはいいと思います。ただ、例えば、2秒止まっているから静止なのではなく、選手がピタッと止めるさばきがしっかり実行できていたかをもって静止技という捉え方が前提にあるので、1.8秒しか静止していないからといってダメだというのは、また違うのではないかと思うのです。そう考えると、芸術的な領域については“人”が見るものだと感じています」
AIによる支援システムは日に日に進化しているそうだが、開発スタッフと審判員による採点尺度の擦り合わせはもちろん、より本質的な部分の話し合いが不可欠だという。
「体操競技とはどうあるべきなのか、この議論をせずに、AIオンリーの採点になってしまうと、美しさや表現力が無くとも、エラーがなく減点のない演技が高い評価をされる面白みのないスポーツになってしまうのではないでしょうか。
今後目指すべきは、それぞれの特性を理解し、可能性と限界を補い合いながら、互いの強みを生かす人とAIのハイブリッド型による、新たな採点システムの導入なのかもしれません」
審判の立場として若き才能たちに勢いを感じた
東京オリンピックで日本は、橋本と北園丈琉の10代コンビを筆頭に、萱和磨、谷川航など若手主体で戦った。高橋も若い彼らの勢いを感じたという。
「事前の合宿からずっと見てきましたが、金メダルを取るぞという意気込みや勢いを感じましたし、団結力もありました。気負っているとか不安を抱いているようには感じられませんでしたね。内村(航平)選手が鉄棒の予選で落下し衝撃が大きかった反面、彼らは気持ちを切り替えたように見受けられました。自分たちがやるしかない、という覚悟がチーム内に漂う、そんな雰囲気を感じましたね」