オリンピックPRESSBACK NUMBER
「美しさはロシアに移り変わってしまって…」 まるで職人技のように採点…体操の日本人審判員が語る《美しさ》への願いとは
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byRyosuke Menju/JMPA
posted2021/11/09 11:01
東京五輪団体では銀メダルだった体操ニッポン。再び頂上に戻ってくるために必要なこととは?
団体メンバー4人の平均年齢は、決勝に進んだ8カ国の中で最も若い21.5歳だった。ライバルの中国を3歳、ROC(ロシア・オリンピック委員会)を5歳も下回っており、今後世界の体操界を引っ張っていける逸材だと期待されている。審判の立場で日本の強化をサポートしてきた高橋もまた若い彼らの成長を願う1人だ。
「美しさはロシアに移り変わってしまっていて」
「彼らには今後さらに伸びてもらいたいと思っています。
そのためにも選手たちには体操競技のあるべき姿や魅力、演技に求められるものを考えてもらいたいと願っています。
今のルールは角度や時間を数値化し、より客観的に誰もが分かるものを基準にしようとしています。もちろん、体操を普及させるためにどうしても必要なことでもあるのですが。ただ、角度の面で正しい位置から16~30度外れて0.100点減点となった場合、17度外れた選手と29度外れた選手が同じ0.100点の減点になる。本来、体操は誰よりもすごい技を、安定して美しく演じた選手に得点を出そうという相対評価だったものが、ルールブックに則って減点を積み重ねた得点に変わってしまっている。
以前、世界の体操界では中国は正確性、ロシアは力強さ、そして日本は美しさという認識でした。今はその美しさはロシアに移り変わってしまっていて、日本は器用であると述べられています。ただし、器用さは小手先の器用貧乏となり、それゆえに美しさが少しずつ減ってきていると感じています。それでも得点は出ているのですが、再び王座に返り咲くためにはもう一度美しく、正しい体操を体現するよう日本体操界が一丸となって取り組んでいかなければと思っています」