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「金で金メダルを買った」と誹謗中傷された橋本大輝の東京五輪跳馬の採点だが… 審判員が語る当時の心境と《公正な評価》である理由
posted2021/11/09 11:00
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Asami Enomoto/JMPA
今夏の東京オリンピックの体操競技で、日本は男子団体で銀メダルを獲得し、19歳の橋本大輝が個人総合と種目別鉄棒で個人2冠を達成。萱和磨は種目別あん馬で17年ぶりの銅メダルを獲得するなど活躍を見せた。
なかでもエースの貫禄を漂わせていた橋本だが、個人総合の跳馬の演技の採点をめぐっては、競技後一部ファンの間で波紋が広がり、国際体操連盟(FIG)が声明を発表する事態になっていた。
日本人で唯一、東京オリンピックの男子体操で審判を務めた高橋孝徳にあの騒動の真相や体操ジャッジの技術について聞いた。
4種目目の跳馬の採点をめぐって起こった議論――。橋本はDスコア(技の難度)5.6のロペスを跳んだが、着地が乱れて右足がマット外にオーバーした。しかしEスコア(技の出来栄え)は9.200の評価。続く平行棒、鉄棒で安定した演技を見せ、金メダルを手にした。
しかし、この跳馬の得点に一部ファンが納得できなかったのだ。
「“ブラック審判”とまで書かれていたようで」
着地時、橋本はマットから足を大きく踏み外していた。にもかかわらず、片足が一歩動いたとはいえ橋本に比べればその幅が小さかったシャオ・ルーテン(中国/銀メダル)と同じ9.200点のEスコアに、疑問の声が上がった。
「日本の恥」
「金で金メダルを買った」
ネット上には過激な言葉が並び、橋本にも中国語で多くの誹謗中傷が浴びせられた。
これを重く見たFIGは「採点が公正かつ正確であったことを確認した」と異例の声明を発表し、採点の内容説明まで行った。
まさにこの跳馬のE審判を務めていた高橋は、「跳馬は随分いろいろなところで話題になった種目。“ブラック審判”というようなことまで書かれていたようで……怖くてみられませんでした」と当時の心境を振り返る。
最終順位を含めて公正な評価と断言
橋本の0.800点分の減点の内訳は、わずかな脚の開きや身体のまがりなど5か所で各0.1点となり、さらに着地後に右足が大きく1歩動いたため0.300点。10点満点からこれを差し引いて9.200点。そこにDスコアの5.600点が加算され、ラインオーバー分の0.100点を減点して、14.700点が公式記録となった。FIGも橋本の得点、最終順位も含めて公正な評価であると断言している。