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《追悼》田中将大に「通訳のマウンド帯同を禁止すべき」発言→人種差別批判も…レッドソックス名物解説者が生前に送った日本人投手たちへの“賛辞”
text by
木崎英夫Hideo Kizaki
photograph byGetty Images
posted2021/11/08 11:00
今年のワイルドカードゲーム、レッドソックス対ヤンキース戦の始球式を務めたジェリー・レミー氏
ある日の試合で、引っ張り専門の左打者が踏み込んでくると察知すると、二塁定位置より深く下がり一塁線をまたぐ極端なシフトを取った。その直後、審判に“ボーク”を宣告され走者の進塁を許してしまったというのだ。レミー氏が当時の心境を述懐する。
「誰だって“ボーク!”と叫ばれれば、投手か捕手に相場は決まっていると思うじゃない。ところが、ルールにしっかりと明記されているんだよね、『ファウルゾーンで守っていいのは捕手のみ』って。恥ずかしながら、それを知らなかった。僕はそのルールを犯した唯一の野手になってしまったようだ」
物議を醸した田中将大への“発言”
ふくよかな頬をさらに広げて苦笑したレミー氏は、そっと人差し指を立て、話を切り替えた。
「僕はね、異国から挑戦するプレーヤーを尊敬しているんだ。だからこのチームでは投球術を心得た日本人投手たちを見るのがもう楽しくて仕方がない」
大家友和に始まり野茂英雄、松坂大輔、上原浩治らに引き継がれたバトンは今季、澤村拓一に渡った。これまでレッドソックスに所属した全8人を見てきたレミー氏だが、中継で日本人選手に向けた発言が大きな波紋を呼んでしまう。4年前の6月6日の試合だった。
伝統の一戦に登板したヤンキースの田中将大(現・楽天)が連続本塁打を浴び、ロスチャイルド投手コーチが堀江通訳を伴いマウンドに向かった場面だった。
レミー氏は「野球用語を学んだらいい。これだけ長くやっていれば投手コーチとの会話なんて投手には簡単にわかるはずだから」と展開。この発言の冒頭には「これ(通訳のマウンド帯同)を禁止すべきだと思う」があり、13年から通訳の帯同が規則で認められていたことから、「人種差別だ」などの批判がSNS上で拡散した。翌日、レミー氏はツイッターで謝罪している。
確かに、配慮に欠けるコメントではあった。が、レミー氏は文化の違いと言葉の壁を乗り越えて、メジャーの檜舞台で活躍する異国からの選手たちを敬う気持ちを強く持っていた。レミー氏の訃報に接し、地元紙にはOBたちからの追悼メッセージが載った。感じ入ったのは、ドミニカ共和国から挑戦したこの二人からのものだった。