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《追悼》田中将大に「通訳のマウンド帯同を禁止すべき」発言→人種差別批判も…レッドソックス名物解説者が生前に送った日本人投手たちへの“賛辞”
posted2021/11/08 11:00
text by
木崎英夫Hideo Kizaki
photograph by
Getty Images
悲しみと落胆、そして感謝の気持ちがレッドソックスファンに交錯している。
ハロウィンを翌日に控えた10月30日、レッドソックスの名物解説者として人気を博したジェリー・レミー氏が68歳の若さで死去した。地元記者の一人は「ニューイングランドの空も泣いている」と、北東部6州に住む根強いファンの想いを代弁した。
ワイルドカードで始球式を務めたが…
レミー氏は、レッドソックスの二塁手として活躍し、現役を引退した4年後の1988年から30年以上にわたりボストンの地元テレビ局NESNで解説を担当してきた。ずっと患ってきた肺がん治療を続けながらも今年8月4日までマイクに向かい、10月5日に行われたヤンキースとのワイルドカードゲームでは始球式を務め、総立ちの地元ファンから喝采を浴びた。
俊足巧打、好守で培った感性がにじむ的確な表現と、ユーモアを絡めた語り口で独自のスタイルを築き、気さくな人柄で選手にも愛された。病にくじけることなく仕事を続けるレミー氏に、コーラ監督が音頭を取り“Jerry Remy Fight Club”と印刷されたTシャツを作り、スタッフも着用。3年ぶりの世界一に向けてレミー氏と共闘する強い意志を示していたが、その願いは果たせなかった。
2004年にレミー氏が上梓した『WATCHING BASEBALL』は以後、3回の加筆改訂版が出るほど人気を博した。表題の通り、試合における攻守の見どころや戦局における心理戦を説き、名選手たちの至言も盛り込んだ、野球というスポーツの概説書である。01年から15年までレミー氏と中継コンビを組み、今はパドレス専属の実況アナウンサーとなっているドン・オルシロ氏が本の中でレミー氏の解説ぶりをこう評している。
「試合が終わるまでに生まれる5つほどの局面で、レミーは私には浮かびもしないことをいつも想定している。そのうちの95%は正解。残りの5%は、ベンチの監督があまりにも消極的な無策で外れたもの。彼は立派な監督になれるはずだ」
現役時代、二塁手のレミーがとられた“ボーク”
鋭い観察力と洞察力で野球を俯瞰するレミー氏だが、現役時代には前代未聞のミスを犯したことがある。私がフェンウェイ・パークの放送ブースを訪ねて、それを本人から聞いたのは11年8月のこと——。