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夏の連覇が途絶える→「力がない世代」が勝ち取ったセンバツ当確 聖光学院・斎藤監督「勝因と言ったら傲慢かもしれないけど⋯」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2021/10/30 17:02
東北大会で準優勝し、「センバツ当確」の聖光学院。“14連覇”を逃した今夏から「新チーム」はどう立ち上がったのか−−
「本気でエースを気づかせるためにも、ここで絶対に佐山を打とうな!」
11安打7失点。佐山は全力で投げ、打たれた。試合後には横山と赤堀から叱咤激励を受けたが、悔しさより頼もしさが勝った。「こいつら、すげぇな」。純粋に思えた。
「夏からウジウジしていた自分をみんなが変えてくれた。あそこから、『秋はやるぞ』と本気で思えるようになりました」
佐山はこの秋、獅子奮迅のピッチングを披露したが、計6完投のうち完封はゼロだった。「ランナーを出してもホームに還さなければいい」「点数を取られても逆転されなければいい」。そう繰り返してきた背景には、野手への全幅の信頼があった。
斎藤監督「このチームの原点を見たような気がした」
事実、打線に破壊力こそないものの、ここぞという場面での爆発力があった。
準々決勝では優勝候補の一角だった日大東北を相手に、1点を追う7回1死一塁から代走を送って勝負に出たことで、続くバッターの二塁打で同点に。さらに2者連続のバントで逆転に成功した。東北大会への出場を懸けたいわき光洋との準決勝でも、8回に4点を奪いコールドでものにしている。決勝の東日本国際大昌平戦では、1-1の8回のチャンスで、相手のエラーから盗塁など機動力を絡めて2点を勝ち越し、3年ぶりの優勝を決めた。
派手さはない。だが、6試合で10盗塁、15犠打、4失策と、こだわり抜いた武器が爆発力を生んだことには違いなかった。
聖光学院は、弱さを認め、強くなった。
県大会の戦いぶりに、斎藤も「このチームの原点を見たような気がした」と頷いた。
「ひたむきさ。粘り。執念。力がないけど、そういった要素を出せたことが勝因と言ったら傲慢かもしれないけど、この結果を得られたことで選手に自信がついたと思う」
殻が、破られようとしていた。
本来ならば10月7日に開幕予定だった東北大会が、新型コロナウイルスの影響によって20日に延期されたことも幸運だった。
この間、聖光学院は攻撃力の向上に努めた。ベンチ入りを逃した選手たちが打撃投手を買って出てくれ、普段よりも短い距離から投げ込むボールをひたすら打った。引退した3年生たちも協力を惜しまず、夏のエース・谷地亮輔は「そんなんじゃ、東北大会でも打てねぇぞ!」と、本気で向かってきたという。
東北大会初戦の東奥義塾戦こそ、県大会さながらの終盤の集中攻撃によって逆転で勝ったが、異質だったのは能代松陽だ。15安打13得点。5回コールドで秋田の優勝校を圧倒したのである。指揮官は「風の恩恵があった」と、強風を味方につけたことを強調していたが、完勝の根幹はそこではなかった。
クリーンアップの安田淳平が打線爆発の背景に挙げていたのは、東北大会までの鍛錬であり、チームの意識の変化だった。