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ヤクルト高津“二軍監督”は予言していた「村上はとんでもない4番になる」3年前『高津プラン』に挙げた野手4人、投手4人の名前
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph bySankei Shimbun
posted2021/10/28 11:05
2年連続最下位から6年ぶりのリーグ優勝。胴上げされる高津臣吾監督
今季、本当の意味でブレイクスルーを果たしたのは、2016年入団の高橋奎二だろう。高津二軍監督は、高橋をなんとしても育てるという思いが強く、私は本でこうまとめている。
「高橋を育成するにあたっては、細心の注意を払い、中9日からスタートして、段々と登板間隔を短くしていくプランを立てていた。中9日であれば、高橋は一軍でも素晴らしい投球を披露できる能力が備わっている」
高い評価をする一方で、次の登板に向けてのリカバリーに時間がかかることが課題として挙げられていた。なぜなら、高橋は向上心が強く、一度の先発を終えると、トレーニングでも高い負荷をかけてしまう傾向があったからだ。高津監督は、それでも「量を落とせ」とは言わず、一緒に考えながら自分で気づく方向に持っていったという。
今季はここまで4勝だけだが、10月20日の阪神との首位決戦では7回を無失点に抑えるなど、登板間隔はまだ長いものの、今や「表ローテ」の一角を占めるようになった。
また、原樹理もシーズン後半になって一軍に昇格、特に10月24日の巨人戦では、4回に自ら走者一掃のタイムリーヒットを放って3勝目をあげ、重圧のかかるゲームで見事な仕事をした。
後半戦、ふたりの若手先発投手の台頭は、スワローズにとって大きかった。
アドリブに見えた「奥川のスピーチ」
寺島、梅野はスポットでは貢献を見せたが、今季はシーズンを通しての活躍は見られなかった。その意味では、2018年の「高津プラン」はそのまま実現したわけではない。
ただし、そのポジションに入った選手がいた。
先発では高卒2年目の奥川恭伸であり、ブルペンでは大卒3年目の清水昇の活躍が大きかった。
奥川については、関係者によれば「投げさせていれば、去年も同じような活躍が出来たはず」という。しかし、球団の育成方針として1年目の奥川は無理をさせず、シーズン最終戦の先発だけにとどめた。
この試合、私は神宮で観戦したが、球速はあるものの、プロ相手に抑えられる技術がないように思えた。2回9安打を浴び、失点は5。翌日、評論家はそろって球団の育成姿勢に厳しい評価を下していた。
ただ、驚いたのは試合後のセレモニーで、高津監督が奥川にスピーチを促したことだ。なにかひと言、ふた言、ふたりが言葉を交わしていたことから、事前の打ち合わせはなく、アドリブだったように見えた。
そこで奥川は見事なスピーチをし、強心臓であることを見せつけた。それは2年目の飛躍でも証明されているだろう。
また、ドラフト1位指名で2019年に入団した清水は、当初は先発での育成が考えられていた。実際、ルーキーイヤーには3試合、一軍での先発登板があったが結果を残せなかった。しかし、2020年高津一軍監督誕生とともにセットアッパーでの起用が多くなり、昨季は30ホールド。今季は50ホールドに到達し、シーズンの日本記録を更新中だ。
清水も適材適所で歴史に名を残すことが出来た。
6人の投手がジャンケンで先発を決めた日
二軍監督は、時には想像もつかないことに対処しなければならない。