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千葉県柏市が地域全体で取り組む新たな少年サッカー指導 子供たちの自主性を刺激し、人間的な成長を促す方法とは?
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byAFLO
posted2021/10/26 17:00
サッカーの技術だけではなく、人間としての成長を導くことも、少年サッカーの指導現場では求められている
まず指導者が伸びないとダメ
小牟田さんは、そうした活動を自分のなかに留めておくだけではなく、オープンに情報発信している。
「良いものは共有したほうが、それこそ地域全体が良くなるのではないかと。みんなが良くなり、ライバルが増えたほうが、いい意味でやりがいがある。そこでいろいろな情報をキャッチボールできるようになると、お互いが成長できる」
コロナ禍で活動もままならない時期もあった。そこで、小牟田さんは周囲の仲間に声をかけて、リモートで「学び合う会」を行うことにした。柏、茨城、つくばなど中心に20人近くの指導者が集まった。池上さんにも声を掛けると、快く参加してくれたという。
評判はすこぶるよく、現在は月1回のペースで定期的に実施している。
活動は柏トレセンにも影響を及ぼしている。トレセンスタッフでもある小牟田さんは、「各チームから1人ずつトレセンスタッフを出そう」と提案。「選手が伸びるには、まず指導者が伸びないとダメ」という理由からだ。トレセンという場所を活用して、指導者が学べる環境を作ろうとしたのだ。
「私とか、大塚信行という4種の技術委員長が中心になって、各自の指導の振り返りをしています。声の掛け方とか、選手がよりポジティブに考えてプレーするためには、どういうコーチングがいいかとか話をして。1回では変わらないけど、そういう機会を作っていくことが柏市の発展につながっていくだろうなと思っています」
サッカーを通じて人間として成長していく
小牟田さんはクラブチームと少年団のパイプ役にもなり、学べる機会を作り続けている。もちろん無関心な人もいるが、関心のある人、学びたい人にとってはたまらない。実際にそうした指導者は成長するし、チームも変わってくる。
「トレセンの選考基準も『学び合う会』に参加している人で作りました。オフザボールの部分を評価する人があまりいないけど、『あの選手は、こういった準備してたよね。次の状況を考えていたんじゃないの?』という部分をチェックして、あとでその選手に実際に聞くと、『本当によく考えていたんだ』と分かるようなこともあります。そうすることで指導者同士がこれまで以上にコミュニケーションをとるようになってきました」
全員に声掛けをしよう。みんないいところがあるから選考会に来ている。だから、ポジティブなところを見つけよう。小牟田さんは仲間たちにそう伝えている。
「セレクションは現時点でのプレーを見て、チェックして、『誰を残すか』みたいな形が多いと思うんですけど、そうではなくて、みんなでみんなを育てていこう、と。柏にいる選手なんだからって。そこは、これまでの基準とは大きく違うと思います」
『自分のチームが良ければ』ではなく、『大会で結果を出せばそれでいい』でもない。サッカーを通じて、選手として、人間として、みんなで成長していく。活発な交流は地域活性化につながるのだ。
それこそが、スポーツが持つ何よりも大きな力ではないだろうか。