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ドイツの育成現場で活躍する日本人サッカーコーチが提言 「夏休みはしっかりと休む」ことが子どもの上達を促す理由
posted2021/08/12 17:01
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
7月下旬のある日、僕は監督を務めるフライブルガーFCのU-12チームで夏休み前最後の練習を終え、子どもたちみんなと笑顔で「バイバイ! 夏休み思いっきり楽しんでね」と言って別れた。
夏休みは休む。それが欧州のスタンダードだ。
U-15以下のチームは最低でも3週間は完全休養
みんな長かれ短かれ、どこかへ旅立つ。地元へ戻る人もいれば、イタリアやスペインのビーチでのんびりする人もいる。だから、街クラブや村クラブでは、それこそ夏休みの間すべての活動を休みにするところだって少なくはない。
夏休みにトレーニングをしようとしても、そもそも人が集まらないのだ。
もちろん、休む理由はそれだけではない。
僕が所属するクラブは年代別リーグ戦でそれぞれ1部から3部でプレーするそれなりの強豪クラブなのだが、クラブの育成部長からは「U-15以下のチームは、最低でも3週間は夏休みを取るように」というお達しが来ている。U-16からU-19チームにしても最低2週間は完全休養となっている。
みんな知っているのだ。長期の休みを取った後の子どもたちの多くは、とても成長して戻ってくるということを。試合がなく、練習がなく、ストレスと負担から解放された時間を持つことが、身体的にも、精神的にも、思考的にも、人間関係的にも、確かなゆとりをもたらしてくれて、自身のモチベーションがまた充電されていくのだ。
普段、とかく慌ただしい日常生活や学校やトレーニングに使用されていたエネルギーが消費されることなく、身体や頭や心の成長へと向けられるまとまった時間があることは、とても大切なことだと思う。
身体的な成長へと十分なエネルギーが向けられる
今は世界中どこも新型コロナウイルスの影響があり、スポーツ活動がいつでもどこでも自由にできるわけではない。国や地域によって、あるいはレベルやカテゴリーによっても制限に差があるだろう。
そんないまだからこそ、改めて休みの大切さと、休み方について考えてみたい。
そもそも、なんで練習をしていないのに、休み後の子どもたちは休み前よりサッカーが上手くなって帰ってくるのだろう?
その理由の1つは、前述したとおり休養時に身体的な成長へと十分なエネルギーが向けられることで身体が大きくなり、フィジカル能力が全般的に向上することが挙げられる。それまでよりも速く走れて、力強く動けることが、プレー面にポジティブな影響を及ぼすのだ。
ただし、それまでより容量の大きいエンジンを搭載すれば、よりいい動きができるとは限らない。どれだけ高性能のOSを搭載したスマホであっても、回路がスムーズに繋がっていなければ本領を発揮することができないのと同じだろう。