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千葉県柏市が地域全体で取り組む新たな少年サッカー指導 子供たちの自主性を刺激し、人間的な成長を促す方法とは?
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byAFLO
posted2021/10/26 17:00
サッカーの技術だけではなく、人間としての成長を導くことも、少年サッカーの指導現場では求められている
まず、試合中に外から子供たちに声をかけるのを控えた。突然の変化に周囲は戸惑った。親からは「コーチどうしたんですか?」と言われた。最初からうまくいったりはしない。それまで勝てていた相手にも勝てなくなる。ベスト8を目標にしていた大会で、1回戦で負けたこともある。それでも小牟田さんは、子供たちが徐々に力をつけてきている確かな手応えを感じたそうだ。
「自主性」を掲げて何もしなければ、それは放任になる。自ら考えるきっかけが見つかりそうなところで、じっと待つのはいい。しかし、何の刺激もヒントもなければ、自ら考え出すことは難しい。
そもそも考えようとしない子供もいるだろう。そうではなく問いかけて、考えるためのサポートをして、選択肢を与えて、積極的にチャレンジする空気感を作り出す。その積み重ねが子供たちの取り組む姿勢にポジティブな変化をもたらすのだ。
そうして時間をかけると、練習中も、練習後も、試合前も、ハーフタイムも、試合後も、子供たちは自分たちから主体的に話をするようになる。みんなと相談をして、自分たちで課題を見つけ、取り組んでいくようになる。
子供だけではなく保護者にも変化が
「千葉県には『チバテレビ旗争奪千葉県少年サッカー選手権大会』という大会があります。それまで優勝したことがなかったんですが、子供たちに『どうしたい?』と話をしたら、みんなが『優勝したい』と。『じゃあ、そのためにどうしたらいいかをみんなで考えよう』と深いところまで子供たちが話し合って、目標を細かく作りました」
そして2019年、柏ラッセルFCは見事に優勝した。補足すると、準決勝と決勝が行われる日が大雪で開催中止となり、4チーム合同での優勝だった。全国大会のような大舞台ではないとはいえ、子供たちには選手として、人間としての確かな成長があった。
小牟田さんは、保護者のみなさんが理解を示してくれたことが大きかった、と振り返る。
「『うちは将来一人の人間として活躍してほしいから、サッカーを通して人間性を高めていきたい。だから、こうしているんです』というところから説明しました。それまでにも皆さんとはコミュニケーションが取れていたので、『社会に出るとそこがすごく大事というのがわかる』と理解してくれて。全面的に後押ししてくれたんです」
コミュニケーションを、積極的に、丁寧に取る。例えば、アンケートも取った。子供のことに限らず、お父さんやお母さんについても掘り下げて聞いた。すると、ポジティブな効果が生まれたという。それぞれのバックグラウンドを知ったことによって、クラブへの関わり方が変わってきたのだ。
「例えば、自分の息子に『口答えするな!』というお父さんがいて(苦笑)。表情を見ると厳しそうな方で、ニコッとするところを見たことがない方だったんです。それがアンケートを取ってから話をする機会を持ったら、1時間以上も話しこんじゃって。次の送迎のときは笑顔で話をしてくれたんです。うちのスタッフには『ちゃんと向き合って話すと、人って変わるよ』と伝えました」