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ブラジルでは子どもにバレーを教えない? “育成のエキスパート”に聞いた日本が投資すべき世代とは「大切なのは“任せる”こと」 

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大山加奈

大山加奈Kana Oyama

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2021/10/14 11:00

ブラジルでは子どもにバレーを教えない? “育成のエキスパート”に聞いた日本が投資すべき世代とは「大切なのは“任せる”こと」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

ブラジルバレーの育成に長く携わってきたマルコス氏(右)。現在はVリーグ・埼玉上尾メディックスの指揮を執り、リーグ開幕に向けて準備を進めている

ベンチにいた190cm超のセッター

大山 本格的にバレーボールへ特化するのは、何歳ぐらいがベストなのでしょうか?

マルコス 厳密に「何歳から」という決まりはありません。遊びでアンダーパスやオーバーパスをやらせて、少しずつできるようになったら「じゃあ今度はここに返してみよう」「次はジャンプしながらオーバーパスをしてみよう」と段階を上げ、感覚を磨いていく。少しずつレベルアップさせ、慌てず次のステップへ入っていく道筋をつくるのが重要です。

大山 U12はこう、U14はこれ、と決めるのではなくその子の成長に合わせて、というイメージでしょうか?

マルコス そうですね。慣れて来たら6対6のゲーム形式を行う。ただし、ポジションのスペシャリストは置きません。ローテーションが動けば、セッター、ミドル、アウトサイド、全員がすべてのポジションを経験できる。日本では小さい頃から背が低い選手はセッター、大きければミドルと固定してしまうようですが、14歳以下でスペシャリストを作ってしまうと、別の可能性を潰すことにもつながります。

大山 同じように全国大会があるのに、日本では育成年代で勝つことを求める傾向が強いのでポジションを固定してしまうことも多い。なぜ同じ発想なのに育てることへの考え方が異なるのでしょう。

マルコス あなたの観察眼はとても正しいです。1つ、こんな例があります。私が(堺)ブレイザーズにいた頃、大学生の試合を見ました。ある大学のセッターはとてもうまいのですが、背が低かった。控えメンバーを見ると、190cmを超える大型セッターがいましたが、そのチームは小さくて上手なセッターを選んだ。なぜか? それはおそらく勝つためです。

 もちろん、監督という立場は結果を求めなければならず、勝たなければ選手は集まりません。そのために小さくても上手な選手を使うのは間違っていません。ただ、長い目で日本のバレーボールの未来を考えた時、(彼がベンチにいたことは)残念ながらそれはあまりいいアプローチの仕方であるとは言えません。もっと別の可能性も探るべきでした。

 日本代表を強くしたいと考えるなら、投資すべきは育成のカテゴリーです。私もブラジルのバレーボール協会で34年間、育成年代の指導に携わって、リカルド、ジバ、ダンチ、ブルーノ、ルーカス、多くのスター選手たちの進化のプロセスを見てきました。ジバなんかはアウトサイドの選手として決してズバ抜けて大きいわけではないですが(192cm)、でも彼にはそれを補うジャンプの技術やボールを扱う技術があり、身体の使い方が非常に長けていた。そこを伸ばした。それぞれの特性、能力を見逃してはなりません。

新監督に求めることは3つ

大山 可能性を潰さないために、そういう目を指導者も養わなければなりませんね。少し話はそれますが、東京オリンピックを終え、日本は新しい監督を入れようとしています。

マルコス 新監督に問うべきことは3つ。「日本は今、どの立ち位置にいて、世界からどう見られているのか」「最終的な順位はどこに到達したいのか」「今いる位置から、その目標まで到達するために、どんなプロセスでどうやって歩んでいくのか」。非常にシンプルですが、実行することは難しい。大きなエネルギーが必要です。

大山 ブラジルのバレーボールに携わるすべての方が、ブラジルのバレーボールを強くしよう、と考えているように見えます。でも日本がそれほど1つになれているか、と言えば疑問が残ります。みんなでナショナルチームを強くしよう! という流れにしたいのですが、なかなか難しいのが現状です。

マルコス 私たち1人1人がチームを持っていたとしたら、もちろん自分のチームを勝たせたいと思うのは当然のことです。ただし、自分のチームを成長させるためには、意見や知識、ひらめきを手に入れるために周りの人たちと意見交換していかなければ、見聞は広がりません。本来「強くしたい」と思うなら、自然に周りの人たちと交流をして、アイディアを交換して、「一緒に戦おう!」となるはずです。自分のチームだけがよければいい、とみんなが思えばただのエゴイストで、全体の底上げにはつながりません。

大山 どうすれば修正できると思いますか?

マルコス 今はブラジルも同様の課題に直面しているので、私のほうこそ教えてほしい(笑)。あくまでこれは私見ですが、日本はまだ閉鎖的な印象があります。女子の日本代表をどう進化させていくかと考えれば、男子がやっていることに近づけるのが大事で、フィリップ(・ブラン/男子日本代表コーチ)のようなスタッフがいれば、目指すべき未来へ向けたビジョンを持ち、導いていくはずです。でも今はまだ、自分たちの中だけで勝って行く方向を探しているように見えます。本当に勝ちたいならば、外の情報をどんどん積極的に取り入れなければなりません。

大山 おっしゃる通りです。私が今できること、女子バレーを現在の男子バレーに近づけていくためにも、子どもたちが2対2や3対3をやる意義があると思って取り組んでいます。

マルコス 加奈さんのようにトライしている方々はたくさんいます。日本のやり方の中で素晴らしい手段を探るべきです。

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埼玉上尾メディックス
アントニオ・マルコス・レルバッキ

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