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ブラジルでは子どもにバレーを教えない? “育成のエキスパート”に聞いた日本が投資すべき世代とは「大切なのは“任せる”こと」

posted2021/10/14 11:00

 
ブラジルでは子どもにバレーを教えない? “育成のエキスパート”に聞いた日本が投資すべき世代とは「大切なのは“任せる”こと」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

ブラジルバレーの育成に長く携わってきたマルコス氏(右)。現在はVリーグ・埼玉上尾メディックスの指揮を執り、リーグ開幕に向けて準備を進めている

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大山加奈

大山加奈Kana Oyama

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Kiichi Matsumoto

バレーボール元日本代表・大山加奈さんとVリーグ・埼玉上尾メディックスを率いるアントニオ・マルコス・レルバッキ(略称/マルコス)監督の対談が実現した。34年間、ブラジルのジュニア、ジュニアユース世代の育成に携わってきた“育成のエキスパート”に、日本のバレーボール界が抱える課題を訊いて、あるべき未来の姿を探った。

大山 2015年に放送された『奇跡のレッスン』(NHK Eテレ)でマルコスさんが日本の子どもたちを指導する姿を拝見し、ずっとお会いしたいと思っていました。

 番組を見る限り、「2対2」を練習に取り入れている印象がありましたが、実際にゲームライクなメニューが多い印象を受けました。当時、指導者として子どもたちと接する機会が増えてきた時だったのですが、私のやり方は「甘い」と指摘されることが多かった。でもマルコスさんの指導を見て「間違っていなかった」と道が拓けました。ブラジルで育成年代の指導を長年されてきたと思いますが、どんな指導をされてきたのか改めて教えてください。

マルコス まずアンダーカテゴリーにおいては、最初から難しいことをやらせるのではなく、簡単なことから始めます。なぜ「2対2」を用いたかというと、人数が少なくなればボールタッチの回数が増えるからです。子どもたちにはまず、ボールを触る感覚を楽しんでほしいし、感じ取ってほしいので、できるだけボールに触る回数を増やしたいんです。

大山

 私も同じ考えです。ただ、日本では試合に勝つための練習が多く、実際の現場では6対6の練習ばかりやらせる傾向が強くなりがちです。

マルコス ブラジルでは逆です。子どもたちには勝つことよりもバレーボールを理解させる、楽しんでもらうことがベースに置かれている。理想は、子どもたちが母親に「早く練習へ行きたい、次の練習まで待てないよ」と言うぐらい好きになってほしい。最初に「楽しい」「バレーボールをやりたい」という気持ちがなくなってしまうと、辞めてしまいますから。

大山 日本の子どもたちは「次の日、練習が休みだよ」と言うと「やったー!」と喜びます。私は日本でも「えー! 休みなの?」と言われるような環境をつくりたいと思っていて。

指導者のアップデートが必要

マルコス 私からも質問させて下さい。加奈さんはこれから、何が重要になってくると思いますか?

大山 指導者の方のアップデートが必要ではないか、と。

マルコス 確かに学ぶことは万国共通で大切なこと。私にとって日本のバレーボールは世界のバレーボールを知るきっかけになった存在です。最初の監督は日本人の方だったので、日本のバレーボールからたくさんのことを学びました。(日本には)オリジナリティ、創造性があります。

大山 マルコスさんが来日して4年、日本の育成年代の現場をご覧になったことはありますか? もしあれば、何か感じることがあれば教えてください。

マルコス まず、レシーブなど日本選手の基本技術の高さは絶対に真似できません。ただ、いいパフォーマンスを発揮するためにもちろん技術は重要ですが、背の高さなど遺伝的な要素も絡んでくる。

 たとえば加奈さんのように背が高い選手が我々のチームに加われば、ブロック力が上がり、ディフェンス力もチームとしてのポテンシャルも変わる。ブラジル、ロシア、アメリカといった国は、技術だけではなく高さやパワーがありますよね。では、日本がそれらの要素を補うために何をすべきか。私は14~15歳のカテゴリーからウエイトレーニングを積極的に取り入れる必要があると感じます。

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