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《現役引退》「悔しいより、申し訳ない」荒木絵里香が語る“集大成”の4度目のオリンピック「あの場面、一生思い出すんだろうな」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byAFLO SPORT
posted2021/10/08 11:04
東京五輪にキャプテンとして荒木絵里香。大会を振り返りながら、悔しさを滲ませた
12名の選手が決まり、予選ラウンドで対戦するチームを想定し、現役の男子選手を相手にゲーム形式の練習を繰り返すも、「これで大丈夫」と確信や自信を得るにはあまりにも時間が足りない。初めて五輪に出場する選手が大半である中、主将であり、最も豊富な経験を持つ自分にできたことがもっとあったのではないか。振り返る言葉の端々に、後悔が滲む。
「自分個人のことだけを考えたら、北京(五輪)の時が、一番いい準備ができていました。たぶんその時はとにかく自分が、自分が、と前のめりだったからかもしれないですけど、やってやる、という気持ちしかなかったから。それって、今振り返るとキャプテンのテン(竹下佳江)さんを筆頭に、チームのことを引っ張って、しっかり導いてくれる人がいたからなんですよね。
でも今回は当時の自分みたいに、(籾井)あきとか、(石川)真佑とか、(黒後)愛とか若い子たちが自分のことだけに集中できる環境をつくってあげられなかった、って思うんです。勝たなきゃ、やらなきゃ、というばかりで、今の自分がどれだけ世界に通用するだろう、っていうワクワク感を与えてあげられなかったのが、すごく申し訳ない。ほんと、申し訳ない、っていう言葉に尽きますね」
そして、不安は的中した。
負傷した古賀と同部屋だった荒木
迎えた初戦、予選ラウンドで対戦する5カ国の中では最も世界ランキングも低いケニア。次戦以降につなげる自信や勢いを得るためにも3-0での勝利は必須だった。
その思惑通りに日本は1、2セットを難なく連取。しかし、アクシデントは起こった。
第3セットの序盤、古賀紗理那がブロックに跳んだ際、相手の選手と交錯し、負傷した。ネーションズリーグからほぼメンバーを固定してきた中、誰か1人でも欠ければ想定が一気に崩れる。泣きながら退場した古賀だけでなく、コートに残った選手全員が青ざめていた、と荒木は振り返る。
「口に出さなくても全員が、やばい、どうしよう、という顔でした。軽傷じゃないことは見てわかったし、私は同じ部屋だったので余計に、この腫れじゃ大会中に戻るのは無理だろうな、って。でも紗理那は1回も“痛い”とは言いませんでした」
サーブレシーブも担い、攻守の要でもあった古賀が抜ければ、当然ながらレシーブのフォーメーションも変わる。古賀のポジションに石井優希が入り、攻守において安定感を発揮したが、黒後愛がサーブレシーブに入る回数も増え、黒後に代わってより守備型の林琴奈が入ればまたパターンは変わる。しかもそれを試し、万全な準備を重ねてきたかと言えば、残念ながらそうではない。
誰が入っても同じ戦力とはいえ、レシーブしてから攻撃にどう入るか、どの攻撃が得意なのか。選手が代われば戦術も変わり、古賀は韓国戦で復帰したもののケガの影響はある。
そのすべてを頭に入れたうえで、「組み立てや構成が一度ゼロになった状況から、その時々でどこに上げるか。全部自分で考えてゲームをつくっていたので、相当大変だったと思う」と荒木はセッターの籾井を労い、ため息をつく。
「それでなくても緊張する場面、しかも舞台はオリンピック。経験豊富な選手でも、冷静になれ、と言ってもなかなか難しい状態でした。最後も、若い選手に他の選択肢を与えられるような具体的な指示をしっかりすべきだった。だから選択が限られるような状況になってしまったことも、キャプテンである私の責任だと思っています」