濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
クロアチア在住・北京金メダル石井慧34歳が語った“理想の格闘技人生”とは? 初参戦のK-1勝利後に明かした「タイトルマッチをしたくない理由」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byK-1
posted2021/09/26 11:03
9月20日にK-1初参戦を迎えた石井慧。愛鷹亮と対戦し、延長判定勝ちを収めた。
「気持ちで勝ったほうが勝つ」
試合が始まると、まずは愛鷹が手数で上回る。体格差があるため、いつものようなパンチの強振はできないがコツコツと攻撃を加えていく。
逆に石井は一発のパワーこそ感じられるものの、後手に回っている印象。愛鷹の動きを研究し、大振りしてきたところに攻撃を返す作戦だったのだがプランが狂ったのだという。
そういう状況で光ったのは、パンチだけでなく蹴りも多用していたこと。ローキックからミドル、さらにハイキックも。ミルコばり、とまでは言わないが、やれることは何でもやってやろうという姿勢が見えた。
試合が進むにつれて石井がペースを掴み、延長判定勝ち。インタビュースペースでは「最後は根比べ。気持ちで勝ったほうが(試合でも)勝つと思ってやりました」とコメントしている。体格差があったことを差し引いても立派な勝利だし、K-1という競技に向かう真摯さも見て取れた。
ガードの高い、しっかりした構えは最後まで崩れず。そのことについて聞くと「僕らしい安全策でしたね(笑)。もっと自分から攻めないといけないんですけど」と語っている。ただK-1に出て勝てばいいとは考えていないのだ。
「相手が思ったより出てこなかったですね。そうなった時に自分から仕掛ける、作るということをしなくちゃいけなかった」
大会翌日にインタビューすると、石井はそう語った。K-1での目標はボクシングでも活躍した京太郎との対戦。12月の大阪大会にも「地元なので。親も見に来やすいですし」と出場を希望している。多ければ年3回のペースでK-1の試合をしたいとも。
タイトルマッチをしたくない理由
K-1に出る理由は、単に憧れの舞台だからというだけではない。自分を強くするために必要だと考えているからでもある。グラップリングの試合に出て、そのための練習を重ねたことでMMAでも関節技を極める率が上がったと石井。同じように、打撃のスキルアップをするなら打撃だけの競技に出るのが一番いいと考えた。
「トレーニングキャンプからして総合とはまったく違いますから。試合に向かう過程も含めていい経験になる。何カ月も打撃の練習だけになるし、スパーリングは全部(試合同様に全力で打ち合う)ガチスパーです。練習で何回もダウンしてます。きついですよ。総合なら、組んでからの打撃もできる。自分にとって安全な場所が分かるんです。でもK-1ではまだそれが掴めてない。闘いながらずっと緊張している状態ですね」
K-1出場は「試合に出て勝つ。それが“最強”への近道だと思うからです」と石井は言う。日本だけでなく世界各地の大会に出場するのも同じ思いからだ。
「いろんな国に、それぞれ強い選手がいるので」
だから、1つの団体に縛られたくない。なるべくタイトルマッチもしたくないという。ベルトを持つと防衛戦の義務が生じ、長期独占契約を求められることもあるからだ。これまでチャンピオンになった団体は、そういう“縛り”がなかったから王座戦のオファーを受けた。どの団体のトップになりたいというのが格闘技人生の目的ではないのだ。いずれ引退した時、どうなっていたいかと聞くと、石井はこう答えてくれた。
「自分の試合のレコード(記録)があるじゃないですか。それを見て“あぁ、こんなに強い選手たちと闘ってきたんだな”と振り返りたいですよね」
彼にとって試合とは、妥協なく格闘技人生を生きた証なのだろう。