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悩む国枝慎吾がフェデラーに質問「どう戦うべきか?」〈五輪金&全米OP連覇〉に導いた“絶対王者の回答”とは
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byGetty Images
posted2021/09/18 17:04
親交がある国枝慎吾とフェデラー。東京五輪前、プレーの悩みを打ち明けた国枝にフェデラーが贈った言葉がある
テニス一家の出自で、英国の優れたジュニア選手だったリードは、もとよりテニスの完成度が高い。国枝が車いす界に持ち込んだと言われる、スピンを掛けてストレートに打ち込むバックハンドも、当然のものと捉えるニュージェネレーションだ。
国枝とリードの初対決は2012年。そこから国枝が5連勝するが、2013年に入ると勝敗を交互に繰り返す。同時期に、国枝がチェアの高さ変更を志向したことは前述したが、その決断の背景にはリードの台頭もあったはずだ。
リードの不調もあり、ここ数年は対戦成績で圧倒的に勝っていた国枝だが、東京大会直近のウィンブルドンで、2年ぶりの敗戦を喫する。その対戦後には、ミスを避けたい気持ちが勝り、「どうしてもスピンを掛けてしまいがち」になったことを悔いていた。
「どう戦うべきだったか?」国枝の質問にフェデラーは…
実はこのウィンブルドン後、豪華な3者が顔を合わせている。ユニクロの働きかけにより、同社の契約選手である国枝とリード、そしてロジャー・フェデラーによる鼎談が行なわれたのだ。
その席で国枝は、フェデラーに「ゴードンに聞かれたくはないけれど、最近、芝で彼に負けてしまった。どう戦うべきだっただろうか?」と助言を求めた。その問いにフェデラーは、次のように答えている。
「芝では攻めることが大切だ。もちろん攻撃にはミスのリスクが伴う。ミスのことを考えると、精神的にもつらい。だが迷ってはいけない。自分が決めたことを貫くべきだ」
その後、車いすテニスツアーの戦場はハードコートへと移ったが、フェデラーの言葉は国枝の心から迷いを取り除いたという。
パラリンピックでリードと対戦すると、攻撃テニスを貫いてストレートで快勝。その翌週に行われた全米オープンでも、両者は準決勝で対戦し、フルセットの死闘の末に国枝が勝利をもぎ取った。さらに国枝はこの全米の決勝戦で、3連敗中だったアルフィー・ヒューエットにも快勝。「コートに入る直前まで、動けないと思っていた」というほどの疲労を感じながらも、一旦コートに入ると、負けず嫌い精神が勝った。
過去の対戦では劣勢だったバックの打ち合いでも優位に立ち、終わってみれば「パラリンピックも含めて、最高」と自画自賛する圧巻のパフォーマンスだった。
「10年後も、まだ慎吾はトップにいるんじゃないかな」
前述したユニクロの鼎談で、リードは車いすテニスの変遷について、興味深い考察を述べている。