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プロスカウトが挙げる智弁和歌山・中谷監督采配《3つの先進性》「試合中に円陣を組まない理由を聞いた時も納得した」 

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間淳

間淳Jun Aida

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photograph byHideki Sugiyama

posted2021/09/02 11:04

プロスカウトが挙げる智弁和歌山・中谷監督采配《3つの先進性》「試合中に円陣を組まない理由を聞いた時も納得した」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

今回の甲子園で一躍注目を浴びた中谷仁監督。プロの視点から采配を分析してもらった

 例えば、決勝戦の6回1死二塁で、9番・大西拓磨が犠打を決めた。相手のエラーも重なって一、三塁とチャンスを広げ、1番・宮坂厚希がタイムリーを打った。勝敗を分ける次の1点を智弁和歌山が取ったことで、この試合はほぼ決まった。

 実は、大西は前日の準決勝で2度バントを失敗している。中谷監督は、うつむいてベンチに帰って来る大西に手招きして声をかけ、翌日にまたもバントのサインを出した。決勝の6回の場面は絶対に走者を進めたかった。バントのうまい選手を代打に出す監督も少なくないだろう。

選手に失敗を取り返すチャンスを与えた

 それでも、中谷監督は大西に失敗を取り返すチャンスを与えた。

 大西は決勝戦で序盤から好守備を連発していた。前日のバント失敗を引きずらなかったのは、指揮官から「得意の守備で取り返せ」、「チームに欠かせない守備への信頼は変わらない」などのメッセージがあったと思っている。そして、大西は犠打を決めた後の2打席ともヒットを打った。

 今大会は調子が上がらなかった徳丸天晴を4番で使い続けたのも、中谷監督が責任を背負う覚悟の表れといえる。準々決勝では4点リードの場面で3番・角井翔一朗にスクイズをさせて追加点を奪った。これは、続く徳丸が楽に打席に入れるようにした作戦だろう。徳丸はタイムリー二塁打を打って、指揮官の心遣いに応えた。

 他にも、控えの須川光大を準決勝、決勝ともに6回から打線の中心を担う角井に代えて起用している。まだ角井に打席が回る状況で出場する須川は、中谷監督の期待と信頼を感じているはずだ。

 投手の起用も含めて「選手をよく見て能力を活かす」、「選手を信じる」という中谷監督の信念は起用した選手以外にも伝わり、団結力やチーム力の向上につながっている。こうした采配や起用法は中谷監督自身の人間性に加えて、選手としても夏の甲子園で優勝した経験、プロ野球で野村克也監督や星野仙一監督の下で主に控え選手でプレーした経験が生きていると感じている。

(3)考える力

 智弁和歌山の選手は野球頭脳、考える能力が高い。

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