甲子園の風BACK NUMBER
プロスカウトが挙げる智弁和歌山・中谷監督采配《3つの先進性》「試合中に円陣を組まない理由を聞いた時も納得した」
text by
間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/09/02 11:04
今回の甲子園で一躍注目を浴びた中谷仁監督。プロの視点から采配を分析してもらった
けがや疲労などにより、どの選手もベストなコンディションでプレーできるとは限らない。その中で、問われるのはベンチ入り18人のチーム力。中谷監督は決勝戦の先発を背番号18の伊藤大稀に託し、4回途中からエースの中西聖輝に継投して逃げ切った。ブルペンでは準々決勝の石見智翠館戦で好投した2年生の塩路柊季らも準備。智弁和歌山は決勝を含む4試合で5人の投手が登板している。
複数の投手で頂点に向かうビジョンが明確だった
複数の投手がいるメリットは、「エースの心身の負担軽減」、「投手起用の選択肢」、「チーム内競争」、「相手の対策・警戒の分散」など、いくつも挙げられる。強豪校には素材のいい投手が集まるアドバンテージがあるのは事実だが、中谷監督は「複数の投手で頂点まで勝ち上がる」というビジョンを明確に描いていたといえる。
一方の智弁学園は左腕・西村王雅と、右腕・小畠一心の両輪で決勝まで駒を進めた。猛暑や球数制限の影響により、複数の投手でチームをつくるのは近年、主流となっている。今大会は、その傾向がより顕著になった。
エース以外に計算できる投手が少なくとも1人は不可欠な中、勝敗を左右すると感じたのは「左腕」の役割だ。
「智弁」以外にベスト8に残ったチームを見ても、京都国際、明徳義塾、神戸国際大付は左投手がエースナンバーを背負う。さらに、明徳義塾と石見智翠館の“チーム2枚目”は変則左腕だった。
左投手の人数は右投手より圧倒的に少ないため、打者は練習する機会が少ない。ここ2年間は新型コロナウイルスの感染拡大で、対外試合が激減していることも重なって、打者は左投手の対応が難しくなっている。決勝の両チームのスタメンを見ても分かるように、甲子園に出場する強豪校は左打者が多く並ぶ。そうしたチームへの対策は特に、左投手が有効になる。複数の投手を育てる流れは加速していくだろう。
(2)選手起用と信頼関係
ベンチ入り18人、さらにはベンチ外の選手も含めた「チーム力」を鍛えている中谷監督だが、選手の起用法や作戦にも「イズム」が出ている。