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プロスカウトが挙げる智弁和歌山・中谷監督采配《3つの先進性》「試合中に円陣を組まない理由を聞いた時も納得した」

posted2021/09/02 11:04

 
プロスカウトが挙げる智弁和歌山・中谷監督采配《3つの先進性》「試合中に円陣を組まない理由を聞いた時も納得した」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

今回の甲子園で一躍注目を浴びた中谷仁監督。プロの視点から采配を分析してもらった

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間淳

間淳Jun Aida

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Hideki Sugiyama

智弁和歌山の優勝で幕を閉じた第103回夏の甲子園。プロ野球スカウトの目で中谷仁監督の采配や評価を上げた選手について分析してもらった(全2回/高評価された選手編も読む)

 夏の甲子園は智弁和歌山の優勝で幕を閉じた。話題となった智弁学園との「智弁対決」に9-2で勝利したが、セ・リーグのスカウトの1人は「点差ほどの力の差はなかった」と指摘する。

 決勝戦を終え、点差が開いた理由に試合数の違いを挙げる声は少なくない。1回戦から勝ち抜いた智弁学園は、決勝を含めて計6試合を戦った。一方、初戦の2回戦が不戦勝だった智弁和歌山は計4試合と、智弁学園より2試合少ない。選手の疲労が、パフォーマンスに影響したという論調だ。

 ただ、このスカウトは「疲労の蓄積よりも、期間の違いの方が大きい」とみている。智弁学園の初戦は8月11日。29日の決勝まで19日間、試合の緊張感を保つ必要があった。

「チーム力は他の強豪校と比べても頭1つ、2つ抜けていた」

 一方の智弁和歌山の初戦は24日で、決勝まで6日間と短期決戦だった。プロを含めた野球経験から「疲労の面なら6日間で4試合する方がきつい。ただ、気持ちが高まったまま試合をできるので疲れを感じない。智弁学園が大変なのは、3週間近く気持ちと調子を維持すること」と指摘する。

 そして、打線が上り調子で決勝を迎えた智弁和歌山に対し、智弁学園はピークを過ぎていたという。智弁学園は決勝戦で、打者有利のカウントから甘い球を見逃す場面が多く「自分の調子が落ちている感覚だったため、自信を持てずに四球を狙っている打者が多い印象を受けた」と話した。

 しかし、日程を同じ条件に組み直して決勝をやったとしても、智弁和歌山の優位は動かないと断言し「チーム力は他の強豪校と比べても、頭1つ、2つ抜けていた。中谷監督のチーム作りは、これから甲子園で上位に進むためのヒントが詰まっていた」と評する。

 就任3年で全国の頂点に立った智弁和歌山・中谷仁監督は「高嶋前監督の野球を全て継承するつもりでやっていて、まだまだ自分の指導方針はない」と謙遜したが、その色ははっきり表れているという。大きな特徴を3つ挙げた。※以下、スカウトの一人称の発言。

(1)勝ち上がる力

 甲子園で決勝に進むためには、連戦を含めて短い期間で連勝を重ねていく必要がある。1試合に「勝つ力」だけではなく「勝ち上がる力」が求められる。

【次ページ】 複数の投手で頂点に向かうビジョンが明確だった

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