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藤井聡太が白鵬に贈った《達心志》 羽生善治の七冠達成時は《泰然自若》、座右の銘《玲瓏》も…「将棋と扇子」の深い関係
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byKyodo News
posted2021/08/29 17:03
2017年の藤井聡太四段(当時)。花束と「大志」と記した扇子を手に笑顔
将棋の戦いで相手から取った持ち駒は、江戸時代の頃は盤の右側に敷いた「懐紙」の上に置いた。明治時代初期には「白扇」を広げて、その上に置いたこともあった。
現代の木製の「駒台」が考案されたのは、明治時代後期だった。
将棋の対局で扇子は、昔から何かと不可欠なものであった。
名棋士たちが揮毫した扇子を写真とともに紹介
現代の名棋士たちが揮毫した扇子を、いくつか紹介する。
大山康晴十五世名人の扇子には、《王将》《忍》《沈思黙考》などの文言がある。
写真の《助からないと思っても助かっている》は、いかにも受けの達人らしい。大山は盤上の危機を、その文言どおりに防御して難局を乗り切ったものだ。
升田幸三実力制第四代名人の扇子には、《着眼大局 着手小局》、写真の《新手一生》などの文言がある。
前者は、盤面全体を広く見てから細かく手を読む、という将棋観である。
後者は、創造的な将棋を指した自身の棋士人生を表わしている。
中原誠十六世名人の扇子には、《無心》《一誠》《道法自然》などの文言がある。
写真の《平歩青天》は、よい天候の道をのびやかに歩む、という意味だが、ゴルフ場での楽しい気分でもあるという。
米長邦雄永世棋聖の扇子には、写真の《地水火風》(万物を構成する四つの元素)、《大道無門》《惜福》などの文言がある。
最後の文言は、福を得ても独り占めせず、他人にも福を分け与える、という意味である。1993年5月に49歳11カ月の最年長記録で名人を獲得した米長は、祝賀会で惜福の意味を語り、会場の人たちと喜びを分かち合った。
羽生九段には約50種類の文言が
羽生善治九段の扇子には、約50種類の文言がある。
羽生の最初の扇子は、五段時代の《決断》。1989年にNHK杯戦で4人の名人経験者を破って優勝した記念で作られた。
1994年に新名人に就いたときの記念扇子は《得欣》(喜びを得る)。
1996年に前人未到の「七冠制覇」を達成したときの記念扇子は《泰然自若》。
写真の《玲瓏》の文言は、澄んだ美しい音や声を立てる様子、という意味である。羽生が座右の銘としている。