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藤井聡太が白鵬に贈った《達心志》 羽生善治の七冠達成時は《泰然自若》、座右の銘《玲瓏》も…「将棋と扇子」の深い関係

posted2021/08/29 17:03

 
藤井聡太が白鵬に贈った《達心志》 羽生善治の七冠達成時は《泰然自若》、座右の銘《玲瓏》も…「将棋と扇子」の深い関係<Number Web> photograph by Kyodo News

2017年の藤井聡太四段(当時)。花束と「大志」と記した扇子を手に笑顔

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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Kyodo News

 棋士が対局で用いる「扇子(せんす)」は、季節にかかわらず必需品だ。扇子を広げてあおぐ、手に持って細かく動かす、開閉させて音を立てる、などの行為には、読みのリズムを取る意味がある。扇子にちなんだ将棋の歴史やエピソード、名棋士たちが揮毫した扇子の文言の意味も紹介する。

 藤井聡太二冠(棋聖・王位)は四段時代の2017年6月下旬、公式戦で棋士デビューから負けなしで29連勝し、空前絶後の新記録を達成した。

 その快挙がメディアで報じられる前から、藤井の人気は大いに高まっていた。関連する将棋グッズの情報は、SNSでたちまち拡散された。

 日本将棋連盟は2017年6月上旬、藤井の自筆による《大志》という文言が印刷された、藤井の初めての扇子を東西の将棋会館で販売した。東京の会館では早朝7時から多くの将棋ファンが並び、用意した100本の扇子は30分で完売した。

 その後、《探究》《進》《初戴冠》などの文言の藤井扇子が販売され、ネットオークションでは定価の約3倍もの値がついている。

白鵬との初対面で「自分も横綱のように」

 藤井は2017年7月12日、地元で行われた大相撲の名古屋場所を観戦した。

 小学校の卒業文集には「将棋界の横綱になりたい」と書き、相撲に例えて自分の目標を立てた。それほど相撲が好きだった。

 藤井は打ち出しの後、支度部屋を訪れて横綱・白鵬と初めて対面した。「自分も横綱のように、堂々とした将棋を指して強くなりたい」と語り、《達心志》という文言の扇子を贈った。

 白鵬は「またゼロから挑戦して、連勝記録を塗り替えてほしい」と語り、藤井を激励した。藤井は10日前の対局で敗れ、連勝記録が29で止まったタイミングだった。

 藤井は公式戦の対局で、自身の扇子を使っている。なくてはならない重要な小道具だ。

 ところがある対局で、宿泊したホテルの部屋に、扇子をうっかり置き忘れてしまった。規定によって対局中は外出できず、扇子を取りに行けない。そこで、関係者の扇子を借りて指したという。

 まさに「たかが扇子、されど扇子」である。

【次ページ】 扇子の音をめぐっての“申し立て”とは

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