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中田翔は無償トレード、張本勲は三顧の礼… “同じ背番号10”も巨人で待ち受ける「イバラの道」〈2戦目で初本塁打〉
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph bySports Graphic Number/Kyodo News
posted2021/08/23 17:03
大阪桐蔭、日本ハム、侍ジャパンで主軸を務め続けた中田翔。自らを省みたうえで、巨人で再起なるか
2014年に一塁手に戻ったが、一塁守備も堅実で、ゴールデングラブ賞を4回も受賞している。大きな体だけに「打つだけの選手」と見られがちだが、守備の貢献でも高かったのだ。
侍ジャパンでもプレミア12、WBCで本塁打を量産
さらに中田は「侍ジャパンの中軸」としても信頼が篤かった。2013年の第3回WBCから出場したが、2015年プレミア12では8試合28打数12安打3本塁打15打点、打率.429で大会ベストナイン、2017年の第4回WBCでも6試合21打数5安打3本塁打8打点、打率.238の成績を残している。
昨年は大阪桐蔭の1年後輩の楽天、浅村栄斗と熾烈な本塁打、打点王争いをした挙句、本塁打は1本差で浅村、打点は4点差で中田がタイトルを獲得した。中田は打率.239と低調だったが、打率.280の浅村を打点で上回ったのだ。好機に極めて強く、当代一のクラッチヒッターであることを証明したと言えよう。
筆者は今年6月、鎌ケ谷球場で二軍戦に出場した中田翔を見ている。
当時金髪だった中田翔は、試合前に1人ベンチの外に出て、バットをゆっくりと振っていた。このとき中軸を組んでいた清宮幸太郎とは言葉を交わさなかったように見えた。このころからチーム内の空気が何かしら変わっていたのかもしれない。
ただ、送り出した栗山英樹監督にも、受け入れた原辰徳監督にも「ここで中田翔のキャリアを終わらせるわけにはいかない」という強い意志を感じる。
「巨人トレードで背番号10」張本勲との共通点と違い
日本ハムから巨人に移籍して背番号「10」をつけた強打者と言えば、1976年の張本勲がいる。
張本は、自身の引退で弱体化した打線をてこ入れすべく長嶋茂雄監督の強い希望で、左のエース高橋一三、レギュラー級の内野手・富田勝とのトレードで迎え入れられた。張本は初めから、王貞治とともに中軸を打つことが約束されていた。「三顧の礼」で招聘されたという感じだ。
しかし今回の中田翔は、無償トレードであり、レギュラーの座は保証されていない。