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“9秒台が4人でハイレベル”と言われた陸上短距離勢は東京五輪に何を感じたか 「世界に置いていかれている感じがしました」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byRyosuke Mouju/JMPA
posted2021/08/07 17:50
メダルが期待された男子4×100mリレーでは、一走、二走間でバトンミスが発生し、まさかの途中棄権となった
「世界に置いていかれている感じがしました」
今大会、日本短距離は、100mで多田、山縣、小池3人ともに予選で敗退した。リレーで銀メダルを獲得した前回のリオデジャネイロ五輪では山縣とケンブリッジ飛鳥の2名が準決勝に進出しており、1人も準決勝に進めないのは2004年アテネ五輪以来のことだった。2019年世界選手権では3人そろって準決勝に上がっている。
今大会を前に、短距離には大きな期待が寄せられていた。山縣は今年6月に9秒95の日本新記録をマーク、小池も9秒98の自己記録を持っての出場だ。加えて、リレーに出場した桐生、今大会では200mに出場したサニブラウンも9秒台の記録を持つ。10秒の壁を突破することへのチャレンジが長年続いたのち、桐生が2017年に初めて突破し、9秒台の記録を持つ選手が次々に現れた。1人だけが突出するのではなく、上位選手のレベルが数段アップしてのオリンピックに、期待が集まっていた。しかし、個人種目はそれとは対照的な成績に終わった。
多田はこう語っている。
「世界に置いていかれている感じがしました」
「10秒0台を出していれば、問題なく通れたと思えば」
100mでは予選は各組の3位までが自動的に準決勝に進み、残る選手の中で、タイムの上位3名が準決勝に進めるが、その3人の中でいちばん遅いタイムは10秒12。
風など気象条件の影響も受けるから単純に比較するわけにはいかないが、リオの予選通過ラインは10秒20、2017年世界選手権は10秒24、2019年世界選手権が10秒23。それらと比べると、基準が上がっている。
多田はこうも語る。
「例年より、異常なくらいレベルが上がっています」
山縣もこう感じていた。
「(準決勝進出への)ラインが高めなのは予想外でした」
だがその後、こうも語っていた。
「10秒0台を出していれば、問題なく通れたと思えば、若干悔いは残ります」
サニブラウン、山下潤、飯塚翔太で臨んだ200mでもそろって予選敗退に終わっている。
それも含めて考えれば、全体的なタイムの向上が見られた一方で、やはり本来のものには遠くおよばない走りにとどまったことが個人種目苦戦の原因となったのではなかったか。大会までの調整もまた、今後検証されるべきテーマではある。