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野球の日韓戦、五輪やWBCなどで日本10勝-韓国9勝の“ほぼ五分” メダルへ2つのカギは過去苦しめられた左腕攻略と…〈宿敵分析〉
posted2021/08/04 11:05
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Shinya Mano/JMPA
稲葉篤紀監督にとって、侍ジャパンのナインは「麾下の選手」ではあるが、その実は「預かっている選手」でもある。「すべての選手に五輪での試合経験を収獲にして原隊に戻ってほしい」と思っていることが、その采配から痛いほどわかる。
2日の日本―アメリカ戦でも、本当に勝負に徹する指揮官であれば、打ち込まれた田中将大からの継投は(岩崎優を挟んで)青柳晃洋ではなく伊藤大海だったはずだし、その後の投手起用も今季のペナントレースで結果を残していない千賀滉大や大野雄大ではなかったと思う。
捕手も絶好調の甲斐拓也をスタメンから外し、梅野隆太郎を初めて起用したが「好調のときはチームをいじらない」と言う原則からすれば――定跡ではない選択だった。
しかし、そうした稲葉監督の「配慮」「温情」が、チームに一体感を持たせたのではないかと思う。
5-6で迎えた9回裏、アメリカはスコット・マクガフをマウンドに上げた。ヤクルトのクローザーであり、日本にしてみれば一番いやな投手だったが、1死から鈴木誠也が粘って歩く。この選手も無安打ながら4番を任され、この日の試合で本塁打を打って面目を施していた。好調の浅村栄斗の右前打でチャンスを広げ、同点につなげた。
タイブレークは“バントができない”チームが不利
この大会では10回から無死一、二塁でのタイブレークとなるが、バントができないチームは決定的に不利になる。それを意識してかドミニカ共和国などもバントを使っていたが、アメリカの先頭打者はトッド・フレージャー。オールスター2回出場、今年春までメジャーでプレーしていたチーム一の大物だ。
マイク・ソーシア監督はフレージャーにバントを命じることはできなかっただろうし、代打も送れなかった。そもそもバントが得意な選手がいなかったのかもしれないが、アメリカは無得点のまま日本の攻撃となった。
稲葉監督はここで村上宗隆に代えて栗原凌也を送る。テレビの解説で宮本慎也氏が「こんなしびれる場面でのバントなんて、僕も経験ない」と言っていたが、栗原は1球で送りバントを決める。ソーシア監督は内野に5人を置く布陣で守ったが途中出場の甲斐拓也がこれも初球を右に運んでサヨナラ勝ち。
「全員に見せ場を作りたい」と言う稲葉采配が、うまく転がったと言うべきだろう。
さて、次戦は8月4日の韓国戦だ。