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「クズ」「インチキ野郎」「日本から出ていけ」 “誹謗中傷”をぶつけられたアスリートへ「気にしないようにすればいい」という無責任さ 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byAsami Enomoto/JMPA

posted2021/08/01 17:01

「クズ」「インチキ野郎」「日本から出ていけ」 “誹謗中傷”をぶつけられたアスリートへ「気にしないようにすればいい」という無責任さ<Number Web> photograph by Asami Enomoto/JMPA

体操男子個人総合で金メダルを獲得した橋本大輝のもとには、誹謗中傷の声が届いたという

SNS隆盛時代の到来前にも誹謗中傷はあった

 東京五輪で焦点があてられた誹謗中傷は、ただ、SNSが流行った今日だけの問題ではない。

 かつて、オリンピックを「楽しむ」という発言から、「楽しむとは何事か」と、テレビ、新聞、雑誌などで壮絶なバッシングを受けた選手がいた。

 代表選考会を「通過点」と語った選手がいた。本番でよい成績を残すことを視野に入れ、その過程として代表選考会を捉えるという発想が、なぜか、生意気、思い上がりだと問題視され連日、紙面などで大きく取り上げられた選手がいた。

 すると起こったのは、関係する団体への抗議の電話である。その内容は、今日の法律では犯罪にあたるような言葉が用いられる、誹謗中傷と呼べるものが少なくなかった。

 その時代にインターネットが発達していて、SNSも隆盛だったら、どんな事態を引き起こしていただろうか――。

“ゼロにはならない”現実をまえに考えること

 これら過去に起きた出来事を考えれば、誹謗中傷を行なう人が社会からいなくなることは、おそらくはないであろう。誹謗中傷することの問題点やその行為の意味などを広め、より少なくしていくように努めることは大事ではある。それでもおそらくは、ゼロにはならない。まして現在は、SNSでメッセージを直接送りつけることが容易な時代である。

 ときに「選手がSNSを使わなければいい」という意見を聞く。だがそれは誹謗中傷への対処として正しいとは言えないだろう。選手たちにも、他のアスリートとのやりとりや情報収集、ファンとの交流、意思や活動の発信と、それぞれにSNSを使用する目的がある。

「気にしないようにすればいい」という声もある。聞き流せる、読み流せるメンタルのある選手もいるかもしれないが、選手も人間であり、多くの場合そうできることではない。何年の何月にどういうメッセージが寄せられたか、明確に記憶している、つまり心に傷を残した選手がいるし、「いくら時間が経っても、思い出してしまいます」と語る選手もいる。「日本から出て行け」「金で成績買うな、いんちき野郎」「くず」「死ね」……容姿までも中傷される。それらは消えることなく、選手の内側に残り続ける。そして現在、国境を越えて、誹謗中傷の言葉が行きかっている。

【次ページ】 メディアが背負っている責任

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